【若生幸也の眼】地方自治体における事務事業・業務プロセスの標準化(2)(若生幸也)(2022年5月25日)
地方自治体における事務事業・業務プロセスの標準化(2)
―広域連携による標準化
若生幸也
前回(1)では事務事業単位の標準化とベストプラクティス観点の標準化の重要性を指摘した。本稿では地方自治体間の広域連携を通じた事務事業・業務プロセスの標準化を論じる。
広域連携による標準化とは、広域連携の導入にあたって行われる事務事業の共通化を指す。広域連携による標準化に関しては、各広域連携手法により標準化基準が異なる。一方の地方自治体が一方の地方自治体に事務を委託する場合、地方自治法による機能的協力の方法として、「事務の委託」や「事務の代替執行」という手法がある。
事務の委託とは、自治体間協議により規約を締結し、特定事務を執行委託する制度である。連絡会議を通じて事務の管理執行調整を行う機会があるものの、受託自治体の条例・規則等が適用され、委託自治体の意向は反映されにくいため、サービス提供方法として不安定な仕組みである。「事務の委託」の課題に対応する形で生まれた「事務の代替執行」とは、地方自治体の事務の一部の管理・執行を当該地方自治体の名において他の地方自治体に行わせる制度である。当該事務についての法令上の責任は事務を任せた地方自治体に帰属したままであり、当該事務を管理執行する権限の移動も伴わない。これらの広域連携手法を活用する場合は、委託自治体の意向は反映されるものの、基本的に事務を受託する地方自治体の事務事業への標準化が図られるし、標準化しなければ効率化効果は生まれにくい。
また施設の共同利用を図る場合に活用可能な「公の施設の区域外設置と他の団体の公の施設の利用」は、施設を自治体区域外に設置し、協議により自治体施設を他自治体の住民が利用できるようにする制度である。高齢者数の人口動向によってひっ迫施設と過剰施設が発生する場合、公共施設の広域利用は不可欠であり制度の活用が望まれる。この場合、それぞれ他の自治体における公の施設の利用のため、区域外に設置していたとしても設置者側の事務事業への標準化が図られる。
広域自治体からの権限委譲事務のうち、地方自治体間競争と関係ない独自性が必要とされない事務については、広域自治体で実施していた事務事業内容をそのまま広域連携組織で受託することで標準化を図ることが可能である。
一方、その他の業務では、法定受託事務や行政法上の行政行為のうち裁量が認められない「羈束行為」は細かな差異はあるものの、乗り越えようと思えば比較的容易に業務の標準化が可能であるが、法規内の裁量が認められる「羈束裁量行為」のような個別の地方自治体での裁量性が小さい事務事業であっても、具体的な裁量基準やその業務手順は各地方自治体で異なる場合がある。この場合、業務手順を合わせた上で、裁量基準を可能な限り統一化することが求められる。統一を図らない場合でも裁量が異なるプロセスのみを各自治体の並行プロセス(例:情報システムの違いなど)として分けること、同一プロセス内であっても一定の範囲の裁量パターン分けを行えば、標準化することが可能である。
具体的には事務系の業務の一例である建築基準行政などで、申請受付・形式審査・内容審査・決定・証明書交付などの業務プロセスがある場合、申請受付・形式審査までと決定・証明書交付は共通化し、具体的な内容審査が複雑であれば並行プロセスとして各自治体担当による審査を実施する。一定の範囲の自治体ごとの裁量パターン分けを行うことができれば、同一の担当者により内容審査までを担うことも可能である。事務系の事務事業であればこのような手法を活用し、事務の標準化を行うことができる。なお、起案様式などが異なる形のまま事務事業の共通化を行っている広域連携組織もあるが、事務事業運営の専門性は高くなり人材確保やローテーションの面で課題が発生しやすい環境にある。
裁量性のある事務事業を標準化することは、関与する地方自治体にとって極めて負荷がかかる取組であり、それが理由で広域連携が進展してこなかった(いわゆる「調整コスト」)。具体的に事業系の裁量行為に位置づけられる都市交通分野のコミュニティバスの広域連携について整理すると、事務事業の目的(交通空白地域の解消や地域発意による公共交通補完)、対象(各地方自治体間の交通空白地域及び住民移動ニーズの認識(境界付近等))、手段(路線確定、法規制との整合、地域公共交通会議等関係機関調整、実施体制構築(連携組織の在り方など)、売上・費用案分方法、運賃・運行頻度・運行時間帯等)を可能な限り標準化する必要がある。目的や対象はそれぞれの解釈により整合が取れる場合は標準化する必要はないが、具体的な手段になると、裁量基準の統一化による事務事業の標準化を行わなければ事業系事務事業は共同で実施できない。上乗せ・横出しとなっている水準を最適化するためには他の自治体との比較が重要で、その気づきを議論の土台とする必要がある。
若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研副理事長兼研究主幹
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員