レポート・コラム

【民間化を見る眼】指定管理者制度のコンプライアンス(宮脇淳)(2022年5月30日)

指定管理者制度のコンプライアンス

宮脇 淳

指定管理者制度は、地方自治法に法的根拠があるものの自治事務である。このため、実務に関しては各地方自治体の判断が大きく影響すると同時に、その判断において個々の地方自治体・民間組織の制度に対する理解度も含め、周辺法令や会計・税務制度への理解の相違等により実務において多くのコンプライアンス課題を抱え続けている。さらに、従来の請負的体質も依然強く、民間の創意工夫による公共サービスの充実にも制約が生じる。特に2022年度以降、コロナ感染拡大の負の影響への対処が続くほか、ウクライナ問題による不安定な経済動向、円安による国内物価上昇と金融政策への影響などを通じて地方財政、民間財務の制約は一段と強まり、指定管理者制度等外部委託に対する見直しは厳しさを増すと想定される。同時に、官民関係の役割と責任の不明確さ、行政側のモニタリング能力の低下、官民間の情報共有やノウハウ蓄積の劣化等構造的問題も抱え続けている。こうした課題について、官民どちらかに偏ることなく積極的に改善する努力が指定管理者制度の進化のためには不可欠である。なぜならば、労働力不足や効率化の必要性は行財政だけの問題ではなく、民間企業側でも自らの持続性確保に喫緊の課題となるためである。

指定管理者制度に関する課題認識の例として、①指定管理者制度の対象となっている施設について所有権が行政にあるなかで、施設への設備投資や修繕業務等資本的支出を負担する必然性と範囲がどこまであるか、地方自治体による指定管理料の支払いを持ってどこまで正当化できるか、②仮に資本的支出を指定管理者側が負担した場合、民間企業として自らの所有権を得ない支出を行ったことになり、企業会計上・税務会計処理上で税効果会計も含めて如何なる処理を行うべきか。例えば、民間事業者の支出で施設への資本的支出を行った場合、地方自治体への寄付行為として処理し、地方自治体側は寄付の証明書類を発行し民間企業はそれに基づく税務処理を行うのが原則となるものの、地方自治体が寄付行為として処理しない場合はどう対処するのが適切か、③契約期間以前の指定管理者制度対象施設の瑕疵・劣化は、所有権を持つ行政側の責任であり指定管理者側が負担する必然性はないものの負担するケースが生じていることに対する対処、④指定管理者制度導入反対などの住民運動に関して指定管理者制度移行後も続く場合、指定管理者だけでなく地域政策レベルの課題として、指定管理を決定した行政・議会も対応する必要があること、⑤災害・事故等発生に関するリスクとして、行政と民間で分担し業務関連の従業員及び施設内の利用者の安全を確保することは指定管理者の役割であるものの、施設自体の被害に対する対応はどのように明確な負担関係をつくるか、余震等二次災害に対するリスク分担を如何に考えるか。⑥管理委託料の地方自治体への返還納付の本来の法的性格は何か。⑦指定管理料の返還が契約条項であれば、リスク等に伴う管理料の割増への対処は必要となるか。⑧委託料方式は、事業収入が固定的で安定運営の前提となる一方で需要が予想以上に拡大した場合、コスト増で収益悪化要因となるため地域政策の大きな転換が政治リスクとして発生しそれへの対処を如何に考えるか。⑨指定管理料の設定に確立されたルールがなく、行政側の過去の実績値をベースにする場合、間接費の適切把握とリスク分担等の視点が不足しやすいこと、⑩契約期間終了により、他の民間企業に指定管理者が変更となる場合、自らのノウハウ等を如何に保全するか、等基本的な構図として存在する。以上の改善にはコンプライアンスの視点から官民間の信頼性を再構築する取組が必要となる。

宮脇 淳
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220530_民間化を見る眼「指定管理者制度のコンプライアンス」(宮脇淳).pdf
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