レポート・コラム

【公共コンサルと政策の視点】業務プロセス標準化レベルと共同処理の在り方(若生幸也)(2025年1月6日)

業務プロセス標準化レベルと共同処理の在り方

「地方財務」2024年10月号掲載)

1.はじめに

 標準化とは、組織内外の合意を得て規格を策定し、当該規格を普及する行為を指す。現時点での地方自治体における最大の「標準化」と言えば、令和7年度までに自治体DXの重点取組事項として実施が求められている「自治体システム標準化」であろう。本来先行して定められるべき「規格」が後回しにされたことや「規格」が幾度も変更されること、そして移行困難団体の仕組みはあれどピン留めされた期限が自治体・ベンダーともに大きな負担となっている。
 大元の問題意識は標準化を通じた情報システムの更新容易性向上、運用負荷軽減、業務プロセス標準化、それに基づく広域連携(共同処理)の推進にあったはずである。一方、自治体システム標準化と業務プロセス標準化には相応の距離がある。端的に自治体システム標準化をなしえても業務プロセス標準化やそれに基づく広域連携(共同処理)には自動的につながらない。本稿では業務プロセス標準化レベルをモデル的に整理し、地方自治法上に規定される広域連携(共同処理)手法と紐付けて検討したい。

2.業務プロセス標準化レベルと共同化

(1)業務プロセス標準化レベル0・共同化なし

 これが通常の自治体業務である。以下図表では各業務プロセスの形で業務プロセスのばらつきを概念的に示している。また業務プロセス全体の長さ(横の長さ)は業務処理時間をイメージしている。なお、業務によって自治体裁量は異なるため、業務プロセスのばらつき度も大きく異なる。法定受託事務や行政法上の行政行為のうち裁量が認められない「羈束行為」は細かな差異はあるものの、乗り越えようと思えば比較的容易に業務プロセスの標準化が可能である。一方、個別自治体での裁量は比較的小さく、法規内の裁量が認められる「羈束裁量行為」のような業務であっても、具体的な裁量基準やその業務手順は各地方自治体で異なる場合があり留意が必要である。

(2)業務プロセス標準化レベル0・共同化

 仮に業務プロセスを全く標準化せずに共同化する場合には効率性は高まりづらい一方、共同化によって業務処理に活用できる人的資源は増えることになる。つまり、各自治体の繁閑の差異を活用すれば人的資源の活用度は高まる。端的に言えば稼働率を向上させることにつながる。ただし、人的資源の活用度を高めるためには各人員が複数自治体の業務処理に対応できるスキルを身につける必要がある。実際に起案様式などが異なる形のまま業務の共同化を行っている広域連携組織もあるが、業務運営の専門性は高くなり人材確保やローテーションの面で課題が発生しやすい環境にある。

図表:業務プロセス標準化レベルと共同化

(出典)筆者作成

(3)業務プロセス標準化レベル1・共同化

 広域連携による共同処理では全ての業務プロセスを完全に標準化しなければ運用困難という誤解も見られるが、可能な限り業務プロセスを標準化する発想も重要である。ここではA自治体・B自治体の業務プロセス差異を見比べながら他自治体の事例も参考にプロセス1’及びプロセス3’に見直した。一定範囲の裁量パターン分けを行えば、プロセス1’及びプロセス3’のように標準化することが可能である。並行プロセスとして残りやすい部分には情報システムの差異などが挙げられる。なお、本来的には情報システムの共同整備が望ましいが、これまでは更新時期の差異もあり進んでこなかった。各自治体の標準化対象20業務の更新時期の注視が必要である。
 具体的には事務系業務の一例である建築基準行政などで、申請受付・形式審査・内容審査・決定・証明書交付などの業務プロセスがある場合、申請受付・形式審査までと決定・証明書交付は共通化し、具体的な内容審査が複雑であれば並行プロセスとして各自治体担当による審査を実施する。一定の範囲の自治体ごとの裁量パターン分けを行うことができれば、同一の担当者により内容審査までを担うことも可能であろう。このような手法を活用し、事務の標準化を行うことができる。
 重要なポイントは、プロセス1’の出力とプロセス2の入出力、プロセス3’の入出力である(上向き矢印↑で示した部分)。それぞれの入出力形式に合致した形でデータ連携できると効率性は格段に向上する。現実的にはRPAや手作業などで入出力に適したデータを生成するなどの苦労がある。自治体システム標準化でデータ要件・連携要件の標準化が最も重要で強く求められる理由はここにもある。この点が固まれば、情報システムの差異により並行プロセス化してもスムーズに連携可能となる。

(4)業務プロセス標準化レベル2・共同化

 業務プロセスを完全に標準化した場合はレベル2となる。先にも述べたように一定範囲の裁量パターン分けを行えばプロセス標準化の可能性も出てくる。最も重要なことは可能な限り基準を明確化し定型性を高めることであり、一定の範囲に収まればプロセスは自治体ごとに分ける必要はなくなる。情報システムの支援は受けながらも職員が習熟対応できるレベルにとどめなければ業務プロセスとして成立しない。定型性と専門性のバランス確保が極めて重要である。標準的な職員が一人前になるまでの期間を設定し、異動サイクルと合わせて育成計画を規定する。
 ベストプラクティスに基づき業務プロセスを標準化すべきことは間違いないが、ベストプラクティスを見るには「モデル性」と「拡張性」の観点が不可欠である。モデル性とは他の自治体をけん引する先導的な品質を持つことである。拡張性とは他の自治体でも実施できる業務難易度に収まっていることである。両者の最適なバランスが求められる。先導的な業務品質が非定型的な対応をもとに実現している場合は、モデル性はあるが拡張性はなく、構成自治体全ての職員が対応できない恐れもあると言えよう。
 なお、広域自治体からの権限委譲事務のうち、自治体間競争と関係ない独自性が必要とされない業務は、広域自治体での実施内容をそのまま広域連携組織で受託することで業務プロセス標準化レベル2の共同化が可能である。

3.地方自治法規定の広域連携手法の当てはめ

(1)事務の委託と事務の代替執行

 一方の自治体が一方の自治体に事務を委託する場合、地方自治法による機能的協力の方法として、「事務の委託」や「事務の代替執行」という手法がある。
 事務の委託とは、自治体間協議により規約を締結し、特定事務を執行委託する制度である。連絡会議を通じて事務の管理執行調整を行う機会があるものの、受託自治体の条例・規則等が適用され、委託自治体の意向は反映されにくいため、サービス提供方法として不安定な仕組みである。「事務の委託」の課題に対応する形で生まれた「事務の代替執行」とは、自治体の事務の一部の管理・執行を当該自治体の名において他の地方自治体に行わせる制度である。当該事務についての法令上の責任は事務を任せた地方自治体に帰属したままであり、当該事務を管理執行する権限の移動も伴わない。
 これらの広域連携手法を活用する場合は、委託自治体の意向は反映されるものの、基本的に事務を受託する自治体の事務事業・業務プロセスへの標準化が図られるし、標準化しなければ効率化効果は生まれにくい。つまり(4)業務プロセス標準化レベル2の共同化を目指し、必要な場合に限って(3)業務プロセス標準化レベル1の共同化となる。

(2)公の施設の区域外設置と他の団体の公の施設の利用

 また施設の共同利用を図る場合に活用可能な「公の施設の区域外設置と他の団体の公の施設の利用」は、施設を自治体区域外に設置し、協議により自治体施設を他自治体の住民が利用できるようにする制度である。高齢者数の人口動向によってひっ迫施設と過剰施設が発生する場合、公共施設の広域利用は不可欠であり制度の活用が望まれる。
 この場合、それぞれ他の自治体における公の施設の利用のため、区域外に設置していたとしても設置者側の事務事業・業務プロセスへの標準化が図られる。つまり(4)業務プロセス標準化レベル2の共同化となる。

4.おわりに

 本稿では業務プロセス標準化レベルをモデル的に整理し、地方自治法上に規定される広域連携(共同処理)手法と紐付けて検討した。業務プロセス標準化レベルを上げるためには自治体間に横たわる「調整コスト」を乗り越えなければならない。改革と呼ばれる取組の必然であるが、負担の下がる「未来」を創り出すには一時的な負担という「現実」に耐えなければならなくなる。この「調整コスト」を誰が負担するのかが極めてネックになる。デジタル化に際しては筆者が「お助け隊」と呼ぶ組織の支援が有効に機能している。対象業務を担う担当部門の「業務そのもの」を肩代わりするのか、「改革」を肩代わりするのか―両者の方向性があるが、担当部門任せで進む状況にないことは自明であろう。
 ここまで情報システムが浸透した時代に、入力→処理→出力を担う最適主体がこれまでと異なっても何らおかしくない。国・広域自治体・基礎自治体の権限設定の見直しや広域連携による垂直・水平共同処理は更なる人口減少・超高齢化社会に対応する自治体に不可欠である。
 「今後の基礎的自治体のあり方について(私案)」として地方自治界隈に大きな議論を巻き起こした「西尾私案」は2002年に出されている。自治体経営基盤をどのように確立するか―この問題意識から20年超が経過しデジタル化も深化している。筆者でできることがあれば気軽に相談してほしい。

※本研究はJSPS科研費JP22K18256の助成を受けたものです。

参考文献
・若生幸也「第5章 情報化を基盤とした事務事業の進化」宮脇淳・佐々木央・東宣行・若生幸也『自治体経営リスクと政策再生』東洋経済新報社、2017年。
若生幸也「広域連携手法のメリット・デメリットとクラウド自治体モデルの構想」『政策研究(2018年7月号)』、2018年7月、新・地方自治フォーラム。


若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研理事長兼取締役
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員

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