【公共コンサルと政策の視点】会計年度任用職員の最適配置の実現に向けた課題と展望(松田睦己)(2025年1月6日)
会計年度任用職員の最適配置の実現に向けた課題と展望
松田睦己
(「地方財務」2024年6月号掲載)
1.はじめに
地方自治体の人的資源にかかる動向を職員数から概観すると、平成6年度の328万人をピークに定員適正化やアウトソーシング等により、自治体の職員数は平成28年度まで減少し、その後横ばいから微増傾向にある一方で、非正規職員は一貫して増加傾向にある。より具体的には令和5年度時点で、非正規職員(会計年度任用職員)の数は74.3万人と、令和2年度時点の69.4万人から4.8万人(6.9%)増加している 。このことから、今や会計年度任用職員は行政運営においてなくてはならない存在と言える。この増加の背景は、一般に「正規職員から非正規職員への置き換え」、「正規職員の不足分の補充」、「一時的な行政需要に対する配置」等のパターンが考えられる。
これまで少子高齢化、税収の減少に伴う人件費削減の必要性や定員増加の困難さ等を背景に、正規職員の人件費と比較して安価な会計年度任用職員の任用は増加傾向にあったが、人件費の高騰や人手不足等を背景に今後は任用のハードルが高まると考えられる。安定した行政サービスを提供し続けるには、地方自治法第2条にて「最小の経費で最大の効果」、「組織及び運営の合理化」が自治体に求められているとおり、限りある経営資源の最適配分を考える必要がある。その中でも筆者は特に、先述の人件費高騰や人手不足等を踏まえ人的資源の構成要素の一つである会計年度任用職員の最適配置のあり方に着目した。具体的には「組織業務を合理化した上で、行政需要から導き出される必要最低限の職員数を任用・配置すること」が今後の自治体にさらに求められると考える。
2.会計年度任用職員の最適配置検討の前提となる観点
会計年度任用職員の最適配置の検討に向けては、まず会計年度任用職員が担う仕事を規定する要因を整理する必要がある。そこで、その要因から会計年度任用職員の最適配置前提となる観点を図表1に整理した。
図表1 前提となる観点
(出典)筆者作成
上記から、正規職員との業務内容の切り分けが必ずしも明確にされていない中で、正規職員以上に任用・配置が特定の担当業務と結びついており、さらに会計年度任用職員制度自体がもたらす制約によって職員・業務、組織が固定化されやすいと筆者は考える。
そこで本論では、会計年度任用職員を取り巻く「組織」と「業務」の枠組みから、会計年度任用職員の最適配置を検討するための視点を論じる。
3. 会計年度任用職員の組織面/業務面の課題
「2.会計年度任用職員の最適配置の前提となる観点」を踏まえ、会計年度任用職員の課題を組織面と業務面に切り分け、以下に整理した。
(出典)筆者作成
(1) 組織の問題:採用・配置の部分最適
会計年度任用職員の任用・配置は、係単位であることが多い一方、担当業務の中には庁内共通の事務(庶務事務等)も含まれており、まとめて実施すれば効率的になる業務を係単位で別々に実施しているなど、任用・配置が部分最適となる傾向がある。これは職員の稼働率(生産性)が低くなり、非効率な予算(人件費)執行を引き起こす。この要因として、正規職員のリソースがひっ迫する中での会計年度任用職員の採用数増加により正規職員による会計年度任用職員の業務及び人材マネジメント行き届いていないことが挙げられる。
(2)業務の問題:業務の属人化
会計年度任用職員に任期の定めがあることを踏まえると、本来的には急な担当者の変更にも対応ができるよう業務ノウハウを可視化しておくことが必要である。しかし、人事異動が少ない会計年度任用職員は、継続して同一の業務に従事することが多く、業務が標準化されないまま再度の任用が繰り返されてしまう傾向にある。加えて、正規職員のリソースがひっ迫していることにより、会計年度任用職員が一人担当化し、再度の任用が常態化している傾向(実質的な無期雇用化)にある。このことにより、業務の属人化を引き起こし、業務の継続性が担保されず、最悪の場合業務が停止してしまうリスクがある。この点について、総務省マニュアル(別紙4-1)では「同一の者が長期にわたって同一の職務内容の職とみなされる会計年度任用の職に繰り返し任用されることは、長期的、計画的な人材育成・人材配置への影響や、会計年度任用職員としての身分及び処遇の固定化などの問題を生じさせるおそれがあることに留意が必要」と指摘されている。
4.会計年度任用職員の最適配置の実現に向けた対応
次に、「3.会計年度任用職員の組織面/業務面の課題」で整理した内容を踏まえ、会計年度任用職員の最適配置の実現に向けた対応策について述べる。
図表3 最適配置の実現に向けたあるべき姿
(出典)筆者作成
(1)業務量・業務内容の可視化、会計年度任用職員の配置基準の策定
まずは、職員の総労働時間、業務別・業務プロセス別の稼働割合を任用形態(正規職員、会計年度任用職員等)ごとに可視化する。このことにより、現在配置している会計年度任用職員がどの業務にどの程度時間を割いているのか算出可能である。その後、各自治体にて正規職員が担うべき業務の基準(高い専門性が求められる業務、政策立案、業務・組織のマネジメント、公権力の行使等)を定めた上で、会計年度任用職員が担う業務との線引きを明確にする。
そして、会計年度任用職員の配置基準を策定する。具体的には、業務手順を分解した上で会計年度任用職員が担う業務が一定程度以上存在している場合に正規職員から非正規職員への置き換えを認める、高い専門性が求められない(計画的に業務ノウハウを蓄積する必要性が低い)場合は原則会計年度任用職員を配置しないこととし、緊急で対応しなければならない場合は1会計年度のみ配置する等の内容が考えられる。
(2)業務の見直し
「(1)現状把握・分析」の結果をもとに、業務効率化を検討する。その際、①ICT技術等の活用、②外部委託化の順で効率化に資する対応を検討する。この点について、総務省マニュアルでも「ICTの徹底的な活用、民間委託の推進等による業務改革を進め、簡素で効率的な行政体制を実現することが求められます。」と言及されている 。そして、引き続き会計年度任用職員が担うと決定した業務についても、「ECRS(排除、結合、入替・代替、簡素化) 」の観点で業務を効率化できないか検討する。
(3)業務の標準化及びノウハウの蓄積
会計年度任用職員の配置までに「(1)現状把握・分析」で可視化した業務プロセスをさらに詳細化し、急な担当者の変更にも対応できるよう業務ノウハウとして蓄積する。また、各課で個別に実施しているが共通している業務は、最も効率的な実施方法で統一し、標準化することが望ましい。
(4)会計年度任用職員の任用・配置の検討
業務の見直し完了後、会計年度任用職員に任せる業務量を試算することができる。その結果をもとに、次年度任用する職員数を決定する。その際、部や課、フロア等の単位で共通した業務(庶務事務等)を実施している場合は、業務を集約化し、特定の職員にまとめて任せることができないか検討する。各種検討後、最終的な任用数および配置を決定する。
(5)定員管理計画(定員適正化計画)への組込
現状把握から採用数・配置の検討の結果をもとに任用・配置の適正化に向けた計画に落とし込み、管理することが望ましい。各自治体で策定されている定員管理計画(定員適正化計画)では、総務省が毎年実施している「地方公共団体定員管理調査」における調査対象に準じ会計年度任用職員を管理対象としていないケースが散見される。一方で会計年度任用職員の増加等を背景に正規職員と合わせて会計年度任用職員の職務内容や人員数を管理する必要性から、香川県高松市 や静岡県富士市 のように会計年度任用職員を定員管理の対象としている事例も存在する。当該事例のように、分析結果を計画に反映し、採用・配置の実施、計画実施状況のモニタリング、計画の見直し(次期計画への反映)と、PDCAサイクルを確立することで実効性を担保することが重要である。
5.おわりに
本稿では、組織面、業務面の課題に着目し、人的資源としての会計年度任用職員の最適配置に向けて今後自治体に求められる対応について論じた。なお今回言及できなかったが、最適配置以外の観点では、勤務態度が良好な職員の継続的な雇用、職員のモチベーションの向上、サボタージュの防止等、人事評価と処遇(給与、再度の任用等)の接続を深めることも重要である。また、最適配置の推進は任用数の減少に繋がる可能性があるため、労働者保護の観点から任期の明示等について採用時に十分に説明することも併せて必要である点に留意されたい。
今後の自治体経営には、厳しい財政事情の中、多様化・複雑化する行政需要に対応するため、経営資源としての職員という観点がより求められる。その1つとして、拡大傾向にある会計年度任用職員の任用・配置の仕組みを早期に構築することが必要である。
(参考文献)
・総務省「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する 研究会報告書(平成28年12月27日)」
・竹田圭助「自治体における人事政策の現状と課題-人的資源管理の考え方を踏まえた人事戦略への転換に向けて」『地方財務』2022年11月、ぎょうせい。
・竹田圭助「定年引上げによる人的資源管理上の課題と展望―現状の見直しと将来予測の必要性」『地方財務(2023年10月号)』2023年10月、ぎょうせい。
・湯浅孝康「地方自治体における臨時・非常勤職員の制度改正-事前評価を通じたデザインと理論の重要性-」『日本評価研究(第19巻第1号)』2019年、日本評価学会。
松田睦己
日本政策総研研究員