レポート・コラム

【都市計画レポート】立地適正化計画が適切に機能しない要因(1/2)(長谷川一樹)(2024年7月1日)

立地適正化計画が適切に機能しない要因(1/2)

1.今後さらに深刻さを増す既成市街地の低密度化

 国土交通省の「平成29年度首都圏整備に関する年次報告(平成30年版首都圏白書) 」によると、首都圏 の距離圏別の人口は、平成22(2010)年~27(2015)年の5年間では東京都心・副都心部から50km圏外では減少、また、50km圏内では増加しているものの、その増加数は鈍化しており、今後は都心10区を除いた全ての圏域で大きく減少に転じることが見込まれるとしている。

<首都圏の距離圏別人口の推移(平成7(1995)年~57(2045)年>

資料:国土交通省 「平成30年版首都圏白書」より引用

 また、埼玉県・千葉県・神奈川県の近隣3県の人口と、特に人口密度の高い地域で広義の市街地を指すDID(人口集中地区)面積の関係を見ると、昭和45(1970)年~令和2(2020)年までの50年間で人口は1,270万人から2,290万人の約1.8倍(1,020万人増)、また、DID面積は1,106㎢から2,346㎢の約2.1倍(1,240㎢増)となっており、人口増加に合わせて市街地が拡大してきたことが見て取れる。

<近隣3県の人口(左図)とDID面積(右図)の推移>

資料:総務省 「国勢調査」、国立社会保障人口・問題研究所 「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」に基づき作成

 国立社会保障人口・問題研究所が令和5(2023)年12月に公表した「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」によると、我が国の総人口は令和2(2020)年~7(2025)年にかけて東京都を除く46道府県で減少した後、令和22(2040)年~27(2045)年以降は、東京都を含むすべての都道府県で減少し、近隣3県においても令和32(2050)年では2,008万人、令和2(2020)年の人口の約1割に相当する200万人もの減少が予測されている。
 一方、厚生労働省の「令和5年版厚生労働白書」よると、平成9(1997)年以降、共働きの世帯数が専業主婦の世帯数(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)を上回り、その差は年を追うごとに拡大の一途を辿っている 。また、内閣府が平成27(2015)年度に実施した「住生活に関する世論調査」の中で、住宅及び住宅の立地・周辺環境に関して、何を最も重視するのかを質問した結果、「立地の利便性(通勤・通学に便利な立地や、公共交通機関、医療・介護・福祉施設、日常的な買い物施設等へのアクセスの良さ)」と回答した人の割合が総数、性別、年齢別のいずれも突出している。

<住宅及び住宅の立地・周辺環境で最も重視すること>

資料:内閣府 「住生活に関する世論調査(平成27年10月調査)」から引用

 1990年代半ば頃から、地方都市はもとより、三大都市圏においても、公共交通沿線など生活利便性が確保された一部のエリアを除く既成市街地では、使われない都市空間として空き地・空き家が小さい穴があくように生じ、人口密度が下がっていく「都市の低密度」が進行することで、地域住民の生活を支える医療・福祉・商業等の縮小・撤退による生活利便性の低下、行政サービスや道路・下水道等のインフラの維持管理の非効率化等の弊害をもたらし、それがさらなる人口減少に拍車をかける極めて大きな要因の1つとなっている。

2.「立地適正化計画制度」の概要

 このような状況を鑑み、国は今後も都市を持続可能なものとしていくためには、部分的な問題への対症療法ではなく、都市全体の観点からの取組を強力に推進することが重要との認識に立ち、各自治体が「密度の経済」の発揮を通じ、居住機能や医療・福祉・商業等の都市機能の集約化と、それと連携した持続可能な地域公共交通ネットワークが形成された「コンパクト・プラス・ネットワーク」の実現を目指し、平成26(2014)年8月に「立地適正化計画制度」を創設している。

<コンパクト・プラス・ネットワークのねらい>

資料:国土交通省 「コンパクトシティ政策について」から引用

 立地適正化計画では、人口、土地利用や交通の現状及び将来の見通しを勘案しながら、都市計画区域の中でも特に居住を誘導して人口密度を一定以上に維持する「居住誘導区域」と、医療・福祉・商業をはじめとする都市機能の誘導を図る「都市機能誘導区域」を設定するとともに、その誘導のために講ずべき施策等を定めることとされている。

<立地適正化計画制度のイメージ>

資料:国土交通省 「立地適正化計画の手引き」から引用

 さらに、同計画では、従来のまちづくり計画のようにインフラの整備や土地利用規制等を通じて都市の姿形を整えるだけでなく、地域住民や民間事業者等を含めた幅広い関係者の総力を結集して、都市空間の整備、管理運営等を行うことで、効率的・効果的に都市機能を高めていく営み、すなわち都市を「マネジメント」するという新たな視点をもって取り組む必要があることがうたわれている。

3.「立地適正化計画制度」の運用の実態

 国土交通省によると、令和5(2023)年12月31日時点で立地適正化計画について具体的な取組を行っている自治体は703自治体に上っている。しかし、これらの自治体の多くが自治体や民間事業者による公共公益施設の整備・誘導等に対する国の財政支援を目的に同計画を策定し、相も変わらぬ縦割り組織のもと、都市全体を「マネジメント」するという視点が著しく欠けている。その結果、居住機能や都市機能の集約化が遅々として進まない一方、市街地の外延化に歯止めがかからず、市街地の人口集積の度合いを示すDID地区の人口密度が低下している自治体も散見される。
 平成5(2023)年12月31日時点で、全国の中核市62市のうち、57市が立地適正化計画を策定済みだが、平成27(2015)年~令和2(2020)年のDID地区の人口密度の増減率が市全体の人口密度の増減率を上回っているのは、次図表に示すように秋田市をはじめとする13市と、全体の約2割にとどまっている。
 次回のレポートでは、立地適正化計画が適切に機能しない要因をさらに深掘りした上、同計画に基づく「コンパクト・プラス・ケットワーク」の形成を着実に推進していくために、各自治体が実践すべき取組について提言する。

<中核市のDID地区及び市全体の人口密度増減(H27-R年)及び立適計画の策定状況>

資料:総務省 「国勢調査」、国土交通省 「立地適正化計画の作成状況(R5.12.31時点)」に基づき作成

長谷川一樹(はせがわかずき)
日本政策総研上席主任研究員

【都市計画レポート】立地適正化計画が適切に機能しない要因(1/2).pdf
TOP