【若生幸也の眼】地方自治体における事務事業・業務プロセスの標準化(3)(若生幸也)(2022年6月7日)
地方自治体における事務事業・業務プロセスの標準化(3)
―官民連携による標準化
若生幸也
前々回(1)では事務事業単位の標準化とベストプラクティス観点の標準化の重要性を、前回(2)では広域連携による標準化の重要性を指摘した。本稿では地方自治体と民間事業者との官民連携を通じた事務事業・業務プロセスの標準化を論じる。
官民連携による標準化とは、官民連携の導入にあたって行われる民間事業者側からの情報を活用した業務の見直しを指す。行政側が常に多くの正しい情報を保有しているという前提に立つのであれば、官民連携による標準化は想定し得ない。しかし実際には多数の団体から事務事業運営を受託している民間事業者は、行政側が保有していない事務事業運営ノウハウの「比較可能性」を確保している。当該団体と他の地方自治体の事務事業運営方法と比較した上で、より良い事務事業運営方法を提案することは、当該団体に対して事務事業の標準化基準を与えることにつながる。
このような比較可能性を確保した民間事業者の事務事業運営ノウハウを十分活用するには、官民連携方式の選択と契約者選定方式に十分留意する必要がある。例えば、最も行政側のガバナンスが必要とされる官民連携方式である業務委託方式は、地方自治体側が仕様を詳細に定め、その仕様に沿った業務を民間事業者等に委託する方式である。一般的な公共事業における建設・土木事業、調査委託等はおおむねこの方式が多く、民間事業者の創意工夫は仕様内での活用にとどまる。創意工夫の必要性に応じて、契約者選定方式が使い分けられており、最低価格による評価を基本とする一般競争入札方式(物品購入等)・指名された事業者のうち最低価格による評価とする指名競争入札方式(土木等)・技術と価格を総合した評価を行う公募プロポーザル方式(建築、調査委託等)等がある。事務事業運営ノウハウを十分に活用したいのであれば、公募プロポーザル方式による調達が基本である。ただし、民間事業者の創意工夫は仕様内での活用にとどまるため、仕様書作成の前段階で民間事業者に対し広く情報収集を行う情報提供招請(Request for Information:RFI)を行うことで、より事務事業運営ノウハウが活用できる体制が整う。
現在、法令遵守の観点から窓口等の業務委託では、最初に派遣契約で派遣職員を事務運営に活用した上で、精緻な業務手順書を整備し、請負契約へ移行するという流れが増加している。この手法自体は業務の見直しを前提とせず、アウトソーシングを行う場合には有効である。しかし、本来的に行政と民間事業者が「ともに考えともに行動する」という観点から見た場合、具体的な運用レベルの精緻な業務手順書を作る前に事務事業の可視化を行った上で、民間事業者側から見た比較優位の業務プロセスを構築した上で、具体的な業務手順書を作成することが必要である。
業務委託可能な範囲の定義については、「地方自治体の適正な請負(委託)事業推進のための手引き」(平成24年1月、平成26年3月一部改訂)に基づき整理すると、基本的に①交付決定等の「判断」は公務員が実施すること、②「判断」以外の付帯作業は業務委託可能であるが、請負契約の場合は公務員からの直接指示は禁止(業務責任者との定期打合せは可)とすること、③公務員と民間事業者従事者の交わりは限定することである。また「市町村の出張所・連絡所等における窓口業務に関する官民競争入札又は民間競争入札等により民間事業者に委託することが可能な業務の範囲等について」(平成27年6月、令和元年6月一部改訂)などを基本的情報として、住民異動届の受付・端末入力・転出証明書の作成や戸籍の届出、国民健康保険・後期高齢者医療制度・介護保険関係の受付、証明書交付など、窓口関係業務27業務について委託可能な業務が定義されており、委託可否等の事務事業の標準化基準になりうる。
これまで全3回で情報システムによる標準化以外の事務事業・業務プロセスの標準化を整理してきた。標準化の前提として重要なポイントは様々な観点から事務事業・業務プロセスを比較することである。総務省研究会である自治体戦略2040研究会の問題意識を踏まえれば、情報システムによる業務プロセスの標準化以外にも様々な観点をもって自治体の「かたち」を見直す取組を進めたい。
若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研副理事長兼研究主幹
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員