レポート・コラム

【公共コンサルと政策の視点】国の「照会」による市町村職員の負担総量推計―年間数百億円の見えない事務負担(若生幸也)(2026年11月8日)

国の「照会」による市町村職員の負担総量推計―年間数百億円の見えない事務負担

若生幸也
1.流山市役所の照会メールは2年で倍に

千葉県流山市の2025年9月議会で、市は国や県から届くメールの件数を答弁した。2023年度の月平均3,342件が、2025年度には8月末時点で月平均6,431件であった。2年で約2倍となった(2024年度は月平均4,345件)。複数の部署にまたがる照会を取りまとめる情報政策・改革改善課では、照会内容の確認・調査・回答を担う担当者の作業時間が、1日約1時間から約2時間へ倍増したという。答弁は、目的や活用方法が明確でない照会、項目が多く精査を要する照会、結果のフィードバックがない照会が見受けられるとも述べている。流山市は人口約22万人、職員数も体制も相応に整った都市である。流山市でこの状況なら、一般行政職員が平均100人ほどの町村の負担は重い。

国から自治体への調査・照会が負担になっているという話は、地方分権改革の会議で10年以上前から繰り返されてきた。一方、総量の試算はほとんど存在しない。この理由は、件数の統計が府省庁横断で整備されていないからである。本稿では公開されている実測値をつなぎ、全国の市町村が国からの調査・照会に費やしている時間を推計した。結論から言えば、常勤職員に換算して1,500人分から9,400人分、人件費換算では120億円から760億円の範囲に収まる。中位推計を抜き出すと、年間約職員数100万人日、約4,500人分、人件費換算で約360億円である。精度に限界がある推計であり、規模感としては「数千人分、数百億円」となった。

2.聖籠町の「420件・656人日」が起点

推計の起点は、新潟県聖籠町が2014年5月の地方分権改革有識者会議ヒアリングで示した数字である。人口約1.4万人の聖籠町が1年間に受けた国からの調査・照会は420件、対応に要した人員は656人日(1人日は1人が7時間45分働く量)であった。府省庁別では国土交通省121件、総務省108件、文部科学省55件、厚生労働省40件と続く。1件当たりの工数は平均1.56人日で、総務省分に限定すると3.3人日に達する。聖籠町はその他計画を34本策定(うち法令で義務付けられたもの10本、国の要請や努力義務によるもの14本)し、策定に1,800人日を要したとも報告している。ただし聖籠町の集計に統計調査や補助金の実績報告が含まれているか否かは資料から判別できず、本稿の定義より広く数えている可能性がある。この点は低位推計の幅により捉える。

この数字は1団体・12年前の実測値である。しかし国から自治体への調査・照会について、府省庁別の件数と工数を揃えて示した公開資料は、管見の限りこれ以外にない。断片的な数値はあり、税務署からの照会だけで年間約490件、当市では200件超といった市の報告が地方分権の提案募集に残っている。また日本都市センターの2024年調査では「類似した照会が複数回送られてくる」という自由記述があった。地方自治総合研究所が2026年5月に人口5千人未満の290市町村へ行った事務負担アンケート(回答60団体)でも、「国・道からの調査物は年1、2回程度にしてほしい」という声が挙がっている。ただし、いずれも負担感や部分的な数値であり、総務省や地方六団体が総量を数えた例も見当たらない。

3.一斉調査システムの調査は年642件

現状の件数を推定するのに活用可能なデータは、総務省が運用する「調査・照会(一斉調査)システム」の実績である。内閣官房行政改革推進本部事務局(以下「行革事務局」という)資料によれば、2024年の各府省庁から自治体への発出は年間5,503件、うち通知4,861件、調査642件であった。回答を求める調査に限定しても642件あり、各市町村にすべてが届くわけではないにしても、聖籠町の420件を上回っている。なお、これはシステムを経由した分に限られる。総務省行政評価局が2025年6月に公表した実態把握では、対象19調査のうち一斉調査システムを使ったものは8調査にとどまり、うち5調査は通知機能のみの使用であった。残りの調査・照会はメールや都道府県経由で届く。つまりシステム上の件数は一部であり、市町村の担当課に届く調査・照会の総数はこれを大きく上回る。

同じ実態把握は、工数面でも参考になる。ある市町村では経由調査1件のデータ確認に担当1人で4~5日、別の市町村では事業者への依頼準備に1日2時間を約20日間かけていた。府省庁側も、調査表の設計に補佐1人・係員3人で約1か月、関係課室との調整に約3か月を費やした事例があったという。1件の調査が国と自治体の双方で数十人日となる構造が見られる。

4.試算結果は常勤職員換算で数千人分・数百億円規模

以上を踏まえ、推計は次の単純な計算式で行った。対象は、国の府省庁(都道府県経由を含む)が市町村に回答を求める調査・照会に限定し、回答を要しない通知・事務連絡、補助金の実績報告、統計法に基づく統計調査、都道府県独自の照会は含んでいない。「1団体当たり年間件数×1件当たり工数×市町村数1,741×人日単価」である。人日単価は、総務省「地方公務員給与実態調査」(2025年4月1日現在)の一般行政職の平均給与月額から、期末・勤勉手当を含む年間給与を団体区分別に求め、団体数で加重平均した約623万円を出発点とした。市町村の過半を町村が占めるため、都市部の水準より低い。これに共済組合等負担金(事業主負担)と退職手当を加え、職員を雇用するのに実際にかかるフルコストとして約801万円、年間勤務230日で割って人日単価約3.5万円とした。なお、庁舎や端末などの物件費、管理部門の間接費は含めていない。算出方法の詳細は図表1の注に示す。退職手当を除き給与と事業主負担だけでも、中位の人件費換算は約340億円である。

第1に件数である。聖籠町の実測420件を下限近くに置き、低位400件、中位600件、高位800件とした。中位600件は聖籠町の約1.4倍で、中位は計画策定を求める法律の条項数が10年間で345から505へ1.46倍に増えた点、高位は流山市のメール件数が2年で倍増した点と整合する水準である。

第2に工数である。聖籠町の平均1.56人日/件を高位に置き、中位1.0人日、低位0.5人日とした。低位は、既存資料から数値を転記すれば足りる定型的な照会が相応に含まれることを織り込んだ値である。

結果は、低位で年間35万人日(常勤約1,500人、約120億円)、中位で104万人日(約4,500人、約360億円)、高位で217万人日(約9,400人、約760億円)となった(図表1)。この規模を全業務量と比べてみる。市区町村の一般行政部門の職員は2025年4月時点で約70.0万人(指定都市12.8万人、市42.1万人、特別区5.7万人、町村9.3万人)である。中位の4,500人はその0.65%、高位なら1.35%に当たる。割合としては小さく見えるが、町村の役場の一般行政職員は1団体平均101人しかいない。4,500人の規模感は、全国926町村のうち45町村の役場職員すべてが国からの照会対応に費やしているのと同じ量である。参考規模として、全国の市区町村議会事務局職員1万188人の44%、税務部門職員6万3,901人の7%にも相当する(図表2)。

この推計は保守的な係数を位置づけている。件数を団体規模によらず一定としているが、団体の規模が大きいほど組織間横断での調査・照会が必要となるため回答作成の工数は膨らむだろう。聖籠町の656人日は職員1人当たり年間約5人日、総労働時間の約2%に当たり、この比率を市町村の一般行政職員全体に当てはめると全国で350万人日を超える。職員比例は上限に近い見方だが、実態が高位推計を上回る余地もある。

さらに計画策定を加えると負担は大きくなる。聖籠町の34計画のうち、法令や国の要請・努力義務による24計画分の工数(計画数で按分して約1,270人日)を策定周期5年で平準化すると年間約250人日、全国で約44万人日(約1,900人、約150億円)である。調査・照会の中位推計と合わせれば、国の求めに応じて書類を作成する仕事だけで市町村職員約6,500人分、年間約520億円の人件費が費やされている計算になる。

5.数字が存在しない理由

総量が把握されてこなかった理由は三つある。第1に各府省庁が個別に発出するため、府省庁横断で件数を数える主体がいない。行革事務局は各府省庁が実施する調査のリストを定期更新しているが、自治体側の対応工数は把握していない。第2に自治体側も課単位で照会を受けるため、庁内で集計する仕組みを持つ団体がほとんどない。流山市の答弁も、国・県から届くメールの総数を件数としており、工数は取りまとめを担う課の作業時間にとどまる。第3に国の統計調査は企業・事業所の報告負担が調査されてきたのに対し、自治体への業務上の調査・照会は統計法の枠外で、負担計測対象になってこなかった。また自治体の側から件数を減らす手立ても乏しい。流山市部長答弁のとおり、照会に答えなくても罰則はないが、答えなければ国の制度や補助金申請に影響が出るおそれがあるため、自治体はどの照会も精査して回答している。

問題の認識自体は古い。総務省は2005年の事業評価書で、国から自治体への調査・照会について「紙によるものが多く」「他部局との調整なく実施され項目が重複する」と指摘し、2006年度から調査・照会業務システムの最適化に着手している。一斉調査システムはその延長線上に2014年から運用されてきた。20年で照会経路の仕組みは整えられたが、件数と工数を数える仕組みは一度も作られていない。負担が見えなければ減らすための手法も生まれない。計画策定は2023年3月に閣議決定された「ナビゲーション・ガイド」が、新設計画数を廃止数以下に抑えるKPIを設けた。しかし調査・照会には総量管理の仕組みがない。

6.一斉調査システムでは「回答作成時間」は減らない

政府は2024年6月の「国・地方デジタル共通基盤の整備・運用に関する基本方針」で、都道府県を経由する調査について一斉調査システムの利用拡大を共通化対象に選んだ。2025年6月には行革事務局と総務省が共通化推進方針を決定している。

この方向性自体は正しいと筆者も考える。都道府県が担っている市町村への照会、回答の回収・督促、集計、データ確認の作業は、システム化で確実に減少する。実態把握でも多くの都道府県・市町村が「都道府県経由で調査を行う必要性を感じていない」と回答している。

しかし同じ実態把握では「一斉調査システムなどを活用したとしても、回答を作成するという市町村の作業負担はほとんど変わらない」とも言われている。市町村の負担の中心は発出や受領ではなく、業務システムからデータを抽出・加工し、事業者に照会し、目視で突合する作業にある。実態把握では9割以上の市町村が目視で突合していた(図表3)。本稿が試算した時間のうち相当部分は、この工程に費やされているだろう。

つまり、照会経路をデジタル化しても、照会そのものの中身が重いままなら回答側の負担は変わらない。調査・照会の負担を減らすなら、件数そのものと1件当たりの回答作成工数を減らす努力が不可欠となる。

ここまで調査・照会の負担を論じてきたが、そもそも調査・照会そのものは不要ではない。照会で集めたデータは、普通交付税の算定、補助制度の設計、災害時の被害把握などに使われ、自治体自身の財源や制度設計に跳ね返る。問題は、必要な照会と惰性で続く照会が区別されないまま積み上がり、この負担と費用が可視化されていないことにある。負担と費用の可視化は、照会を減らすためだけでなく、必要な照会を守るためにも必要と考える。

7.提言―数える、減らす、合わせる

提言はいずれも、新たな法律を要せず、既存の仕組みの見直し・運用で始められる手法を中心に絞った。

第1に数えることである。各府省庁が自治体に発出する調査・照会について、年間件数と回答に要した時間を行革事務局が一元的に集計し、府省庁別に公表すべきである。このために新たな調査は不要である。一斉調査システムの調査機能に回答所要時間の入力欄を加え、メールで発出している調査も同システムへの登録を原則とすれば、件数と工数は回答のたびに自動で集計される。行革事務局はすでに各府省庁の調査のリストを定期的に更新しており、ここに工数列を加えることが必要である。事業者向けには統計調査の報告負担を調べた実績がある。自治体向けにも同じ趣旨を導入する必要があろう。

第2に減らすことである。最も早く効果が上がるのは、国がすでに持っているデータを再度照会しないことである。日本都市センターの2024年調査にも、「国と都、掌握部署の違いにより、同じような調査がくる」という声が寄せられている。決算統計や定員管理調査、法定の定例報告で把握済みの項目は、府省庁間で融通すれば足りる。行革事務局の調査リストで項目の重複を点検すれば、自治体側の作業は1件丸ごと消えることになる。あわせて計画策定で導入された「新設は廃止以下」の考え方を調査・照会にも当てはめ、新たな調査を始める府省庁には可能な限り既存の調査の廃止か統合を同時に示してもらう。筆者は日本商工会議所の規制改革提言の取りまとめで1増1減ルール(One In One Out)の仕組みを提言したことがあるが、法令ではなく行革事務局の運用で回せる分、自治体向けのほうが導入しやすいと考えられる。

第3に照会を自治体のシステムに合わせることである。2026年3月末に原則の移行期限を迎えた自治体情報システムの標準化は、住民記録、税、福祉など20業務の基幹システムを揃える取組であり、照会負担を減らす土台になりうる。ただし、標準仕様書に国への報告機能を次々に足していく方向性は取るべきではない。移行対象の29.1%にあたる1万13システムは2030年度末まで移行が延びており、事業者の人員は不足している。中核市市長会の調査では移行後の運用経費が平均で2倍強に増える見込みとされ、度重なる仕様の改版が一因とも指摘されている。照会を減らすための改版が事業者の改修費と自治体の運用経費を増やすのは本末転倒である。

そこで国の側が合わせる。20業務について照会するときは、標準仕様書で定義済みのデータ項目と、既存の帳票やデータ抽出機能で答えられる形に調査票を設計するよう発出する府省庁に求める。改修は生じず、行革事務局が新規調査を点検する際の確認項目に一つ加えれば運用できる。この上で、毎年全団体に求める定例の報告に限っては、第1の提言で数えた件数と工数をもとに改版の費用と比べ、見合うものを年1回の定期改定に束ねて標準仕様に加えることを検討する。標準化への投資を、照会の負担軽減という形でも回収するひとつの道筋になる。

ただしこの策が効くのは住民記録、税、福祉などの分野に限られる。聖籠町で件数が最も多かった国土交通省の照会の多くは標準化の対象外であり、そこは第1と第2の提言で対応することになる。

8.総量の数字を持って国・地方自治体を通じた負担軽減議論を

地方分権改革は、権限移譲と義務付け・枠付けの見直しを軸に進んできた。しかし自治体の現場を最も日常的に圧迫しているのは、法律上の義務付けではなく、事務連絡1本で届く調査・照会である。それが市町村職員の数千人分の時間を要しているという規模感は、これまで数字として示されていなかった。

精度には限界がある。聖籠町1団体の実測値に依存しており、団体規模による差も捨象している。地方三団体が国と交渉したいなら本来は自ら調査すべきである。筆者としても推計の精度を高めたいので、直近1年の照会件数と対応工数の提供に協力いただける自治体があれば、筆者までご連絡をいただきたい。数字がなければ、自治体側は「負担感」しか交渉の場に持ち込めない。数字があれば、どの府省庁のどの調査を廃止すれば何人分の職員が本来業務に移行できるかを具体的に議論できる。人口減少で職員採用が難しくなる中、数千人分の時間を取り戻す改革に、国も自治体も本気で取り組む時期に来ている。

出典

このほか、図表の出典に掲げた総務省の統計(地方公共団体定員管理調査、地方公務員給与実態調査、地方財政白書)を用いた。

若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研専務取締役
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員

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