レポート・コラム

【Opinion】原油価格と政治リスク(宮脇淳)(2026年9月)

■原油需給関係

 今年7月以降、米国・イラン間の紛争が再び激化し、イエメンのフーシ派やサウジアラビアを巻き込んでホルムズ海峡から紅海マンデブ海峡へと、世界の原油供給ルートに対するリスクを拡大させています。近年の世界の原油需給関係をみると、図1となります。新型コロナによる世界的パンデミックが深刻化した2020年には、需給共に最低となりました。その後、世界経済の回復と共に需要が拡大し、常に供給を上回る状態が続いています。とくに、今年夏以降はホルムズ海峡等の封鎖問題から世界の原油在庫が急激に減少しています。そうした中で、世界のエネルギー需給への構造的危機感が高まっています。

(資料) IEA 等

 世界第2位の原油消費国である中国は、経済成長と共に過去10年間で2倍近い原油消費量となっており、世界のエネルギー市場に大きな影響をもたらしています。同時に、OPECの世界原油生産に占める割合は2025年に34%にまで低下し、非OPECの割合が60%を超える状況となりました。こうした変化が世界の原油市場だけでなく、政治構造にも大きな変化をもたらしています。

■原油市場と政治リスク

 米国は世界最大の原油生産国であり消費国でもありますが、原油市場を支配していません。あくまでも、原油市場への供給・需要の参加者に過ぎず、価格形成自体は市場のトレーダーによって展開されます。この点は、世界第2位の原油生産国サウジアラビアでも同様です。トレーダーは、原油の需給関係に敏感ですが、同時に原油を取り囲む政治リスクにも敏感です。

 トレーダーが見る政治リスクはトランプ大統領就任以来、「北米第一主義」、「西半球と東半球」、「米国モンロー主義」など様々な視点があります。加えて重要となるのは、米国一国ではなくイスラエル、英国、アラブ等関連諸国を結び付けた政治のリスクネットワークです。その重要な核となるのが「リクード派」です。

■リクード派

 米国・イスラエルとイラン間の紛争の根底には、イスラエル、アラブ諸国、イスラム諸国間で歴史的に繰り返されてきた主導権争いの歴史があります。19世紀末から始まったユダヤ人のパレスチナ帰還運動である「シオニズム」は、帝国主義時代の大財閥であるロスチャイルド家による巨額の財政的支援のもとで行われています。1917年、ユダヤ人のパレスチナ国家建設を認めた英国による「バルフォア宣言」も、当時の英国政府がロスチャイルド財閥の支援を取り付けるための方策であったとの指摘もあります。

 そうした歴史の流れの中でリクード派は、1973年に結成されたイスラエルの政党で、「軍事力強化による領土拡大を目指し、対アラブで最も強硬な政党」と位置付けられています。リクードはヘブライ語で「団結」を意味し、軍事力強化を優先する勢力とされています。リクード派は、イスラエル領土を拡大し「大イスラエル」を実現することを目指しているとされます。ガザ地区でのパレスチナ・ハマスの台頭に対して警戒心を強め、2005年から強硬派であるネタニヤフ氏の率いるリクード政権が復活し、今日におけるハマス、ヒズボラとの対立姿勢を形成しています。

TOP