【経済トピックスNo.7】対日25%関税のマクロ的影響(宮脇淳)(2025年7月14日)
【経済トピックスNo.7】対日25%関税のマクロ的影響
トランプ関税政策の対日25%が日本経済に通年で与える影響は、実質経済成長率ベースでマイナス1.1~1.2%ポイントと試算できます。このため2025年度の日本経済実質成長率は良くてゼロから0.1%程度となります。これは、対米輸出で70%程度を占める自動車産業・機械産業をベースとする試算であり、半導体関連の具体的課税内容、アジア地域を含めたサプライチェーンの変化等さらに検討すべき課題が残ります。少なくとも国内所得7兆円、雇用者6~7万人に一次的影響を与えることになります。日本経済の潜在成長率は、0.9%程度と見込まれ、それに匹敵する水準が失われることになります。
(資料)日本政策総研試算、当初予測は2025年2月段階
自動車産業の他、対米関係で大きな影響を受けるのは産業用電気機器、デバイス関連、半導体製造機器等となっています。今後、関税政策の具体的な中身がさらに明確になるにつれて影響範囲も広がることが懸念されます。
国内経済として自動車産業、機械産業、加えて半導体産業は日本経済の大きな柱であり、製造業関連企業城下町にとっては直接的影響が避けられず、地域経済へのダメージも十分注視する必要があります。たとえば、自動車産業等製造業が柱となる広島県では製造業付加価値が1兆円を超え従業者も20万人強、隣の山口県でも付加価値額3000億円弱、従業者5000人強となっています(総務省・経済産業省「経済センサス」)。半導体製造も海外からの国内投資の時期が見直される等の影響が生じています。こうした動きは、企業収益や雇用面に限られず、国や地方自治体の税収へもタイムラグを経て影響します。
個別企業では日産自動車が、米国・カナダ両国で相互に自動車関税を発動しているため米国で生産(テネシー州・ミシシッピー州)のカナダ向けSUV等の生産を停止しました。また、税制支援措置停止から米国でのEV生産も延期し、他の自動車会社の生産を受注するなど見直しが進んでおり、こうした動きが日本国内に波及することは避けられません。
今回のトランプ関税で自動車や機械等のアジアをはじめとしたグローバル・サプライチェーンも大きく変化する可能性があります。こうした中で、日本経済として既存の枠組みを守るだけでなく積極的に新たに創造する取組が重要となります。
宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授