【経済トピックスNo.5】米国経済の苦悩(宮脇淳)(2025年6月16日)
【経済トピックスNo.5】米国経済の苦悩
関税、外交、内政いずれでもトランプ政権の行き詰まりが徐々に顕在化しています。とくに国内経済は関税増税による製品への価格転嫁が進んでおり、企業経営、消費活動を問わず停滞色を深めはじめています。
米国製造業の景況は2025年1-3月期まで、トランプ関税増税実施前の前倒し需要で支えられたものの、その後の揺れ動く関税政策、関税引上げによる仕入コスト増、消費減速等の影響で2025年経済の通年見通しが揺れ続けており、2025年経営計画を撤回、もしくは見直す企業が多い状況が続いています。
また、非製造業の景況も鈍化傾向を強めています。5月には新規受注が大きく減少する結果となったほか、消費活動が選択的支出を中心に鈍化し、消費者が支出ではなく貯蓄を選択する傾向を強めていることが背景として指摘できます。一方で、仕入価格はトランプ関税の増税に伴う価格上昇が進んでおり、何らかの形で製品価格へ転嫁している企業は全体の70%程度に及んでいる模様で、今後さらに転嫁が進む可能性があります。但し、関税増税分の1/3程度の負担は米国への輸出企業となっています。なお、製品価格転嫁による関税増税分の吸収は限界であるため、人員削減等リストラを明確にする米国企業も多くなっています。
米国企業の60%以上が国際貿易の緊張化から今後の相場の不安定化を予測しており、為替ヘッジへの対応拡大とヘッジ期間の延長を検討・実施する傾向が広がっています。インフレ期待の高まりは、資本の流れを歪めているとの指摘が多くを占めています。
今後の焦点のひとつは米国の財政・金融問題であり、連邦政府財政赤字に対する姿勢がポイントとなります。トランプ大統領は債務制限法廃止・金利1%引き下げを主張していますが、制限法を廃止した段階で米国債需要低迷・債券価格下落・利回り上昇、ソブリン問題再燃で米国市場から資金流出となる危険性があります。
なお、大きなポイントとなっている米中関税問題では中国が規制しているレアアース磁石問題が焦点となり、米国だけでなく日本の自動車メーカーも含めて生産活動に大きな影響を与え始めています。6月に入り、中国が米国大手自動車製造3社にレアメタル輸出を一時的に認めたことが確認されています。しかし、中国は国内的な供給管理体制の強化を図っており、輸出供給制限の恒常化を図っています。一方で中国商務省は、EU向け自動車生産レアメタル輸出の手続きの簡素化・敏速化を決定し、EUへの一段の接近を模索しています。
6/13に本格化したイスラエル・イラン紛争の行方は、当然に原油価格だけでなく世界経済・金融に大きな影響を与える要因であり、市場動向や企業経営にも慎重な判断によるリスク対応がさらに必要となります。
宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授