【経済トピックスNo.4】揺れる米中合意の行方(宮脇淳)(2025年6月3日)
【経済トピックスNo.4】揺れる米中合意の行方
5月の米国市場では5月初めの対中国関税引き下げ、90日間停止等米中合意を歓迎し投資資金の米国回帰が生じました。その結果、S&P指標も大きく上昇しています。一方で実体経済面では、米国トランプ政権の関税政策や移民政策の目に見える影響が生じはじめ、司法機関の関税政策差し止め等実施を拒む対応も拡大しています。
5月下旬、5月初めに合意した米中関税合意に関する取組状況について、トランプ政権側から合意違反との指摘が本格化し新たな措置の検討を示唆すると同時に、非関税措置等により中国への対応を厳しくし米中対立再燃の懸念も消せない状況が続いています。
一時緩和した米中貿易戦争が再燃懸念を強め、5月末には債券市場利回りが低下、米国株式市場も足重状態となりました。トランプ大統領が「中国は合意に完全に反している」と指摘、関税引き下げや重要鉱物に関する合意に違反があったとし、新たな対抗措置をとる用意があると示唆しました。但し、どのような違反かは具体的には言及していません。
この点に関して、ベセント財務長官は事務レベル協議の行き詰まりがあることを指摘しつつ、背景に重要鉱物の対米輸出が再開されていない等を指摘、対中国に的を絞った新たな措置が必要と補足しています。また、トランプ大統領と周主席のトップ会談の必要性も指摘しています。加えて、具体的な企業行動例として米国半導体支援ビジネスの米シノプシス社が米国輸出規制を遵守するため対中国サービス提供を停止すると通知していることも指摘されています。許可なく対中出荷を行わないよう幅広い企業に米国政府が打診したほか、特定米国企業に付与していたライセンスも取り消したといった動きも指摘されました。
これに対して中国政府は米国の「差別的制限措置の停止」と「ジュネーブでの米中合意遵守」を強く求める姿勢を示しています。
こうした中、米国国際貿易裁判所は5/28にトランプ関税の多くを「国際緊急経済権限法」違法と判断し差し止め命令を行いました。しかし、関税政策を支える法律は広範囲にあるため、トランプ関税政策の姿勢を実務上変更する力は弱いとされており、むしろ強硬姿勢を強めることを懸念する法律家、企業経営者からの指摘がなされています。
一方、実体面では米国消費者物価の伸びが鈍化し、4月時点コアベース(食品・エネルギー除く)で前年比2.5%上昇にとどまり2021年以降最低の伸びとなりました。不透明な関税政策で経済不安が高まり、米国の家計が消費ではなく貯蓄を重視し選択する傾向が強まっていることを示しています。こうした状況を受けてFRBは、当面様子見姿勢を維持する可能性が高く、利下げ再開の判断は9月以降とみられています。このため、トランプ大統領はパウエル議長とホワイトハウスで面談、金利を引き下げるべきとの批判を繰り返しています。
宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授