【経済トピックスNo.2】追加関税90日間停止の背景(宮脇淳)(2025年4月21日)
【経済トピックスNo.2】追加関税90日間停止の背景
宮脇淳
トランプ政権の関税政策により米国経済への懸念が広がり、NYダウ、NASDAQともに乱高下し、S&P指数も4月に入り5000を一時割り込むなど株式市場が不透明かつ激しい動向を続けている。この間、市場をけん引してきたひとつであるApple株はトランプ大統領が相互関税発表後、時価総額ベースで7600億ドル減少するなど、米国市場にシフトしてきたファンド等投資資金運用を見直し、リスクの高い株式投資から金、債券などへ資金運用を分散させている。
トランプ政権は4/9に追加関税の90日間停止を発表している。この背景のひとつには、債券市場の危機的状態があった。これまで、米国株式市場から資金が流出しても米国債を中心とする米国債券市場が受け止めてきた。このため、債券市場に資金が流入し米国債の価格が上昇、一方で長期金利利回りは低下する動きを続けた。しかし、4月に入り米国債券市場に流入してきていた資金が分散化し、米国債への需要は減少し価格は低下、長期金利利回りが上昇する動きに転じている。
こうした流れは米国からの資金流出を進め、トランプ政権が推進する減税政策等財政赤字の財源調達は困難化する。米国債需要が減少する中で新たな米国債発行を市場で行えば、長期金利は急騰し米国経済の減速を加速させる危険性が高まると同時に、米国債のソブリン自体を悪化させる要因ともなる。実体経済の貿易戦争の激化によるサプライチェーンの混乱だけでなく、資金のサプライチェーンに関して米国中心の構図を崩しかねない危機を水面下でもたらしている。
2024年段階で米国債の海外保有のトップは日本、第2位が中国、第3位は英国である。貿易戦争が激化しつつある中国が米国債保有の第二位であること、一方で中国をはじめとした新興国は2000年代に入ってから徐々に準備資産として米国ドル離れを進めており、第二位の保有国であるものの保有金額は減少傾向を続けてきたこと、新興国等は米国ドルから金などへ準備資産を移行させていることなどに留意する必要がある。
関税や貿易戦争は、実体経済を中心とする問題となっている。しかし、米国貿易赤字が関税政策でも改善されない場合、次の段階ではトランプ政権として米国中心に形成されている金融決済制度への揺さぶりをターゲットとする危険性がある。このことは、最終的に世界経済における基軸通貨のあり方を問いかけることに結びつく。
宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授