レポート・コラム

【経済トピックスNo.1】トランプトレードの終焉とスタグフレーション懸念(宮脇淳)(2025年3月18日)

【経済トピックスNo.1】トランプトレードの終焉とスタグフレーション懸念

宮脇淳

 トランプ政権の関税政策を契機に、トランプ政策と市場との蜜月関係、いわゆる「トランプトレード」(株高・ドル高)の終焉が本格化しています。トランプ政権の関税政策とそれによる貿易戦争の様相は、トランプ政策の「いつ・どこで・どれだけ」の政策を展開するかの不透明感も加わり、製造業を中心とする景況感の悪化を大きくしています。
 企業だけでなく、米国内の消費活動にも大きな影響を与えています。これまで堅調であった米国の雇用所得環境に対する将来不安が大きくなっています。ミシガン大学の「消費者信頼感指数」は年明け以降悪化の一途をたどり、とくにインフレ圧力、すなわち物価上昇に対する懸念は深刻化しています。
 ロイターの調査によると米国民約57%がトランプ政権の関税政策、経済刷新政策に対して常軌を逸していると評価。一方で長期的には報われるとする評価が41%で時間軸の中でどこまでデメリットを克服できるか課題ともなっています。なお、民主党支持者では長期的に報われるとする回答は5%にとどまっています。
 以上からFRBは関税政策による米国経済のスタグフレーション化を強く懸念しており、一時的なインフレ圧力低下には左右されず、需要・投資すべての活動が減速する中でのインフレ要因剥落が明確となれば利下げ可能とする視点を重視しています。
 EU、カナダ、メキシコ、中国等に対する関税政策は、牛肉等食料品、生活関連用品、そして自動車など日常生活に広範な影響を与えることが懸念されています。たとえば、オムツ等の生産に不可欠な吸収材の原料である竹材は米国ではほとんど生産されず、関税によるコスト上昇分は商品価格の上昇に直結しやすい構図にあります。消費小売関連の米国企業の中には、中国企業に対して関税引上げ分を商品輸入価格から値下げすることを求める行動も生じており、中国政府は契約違反として抗議する流れも生んでいます。
 投資ファンドの資金運用の方向性にも変化が生じており、ハイテク等成長株(グロース株)から関税政策の直接的影響を受けづらい銀行・エネルギー、公益等のバリュー株に資金移動が本格化、これまで半導体、AI投資を柱としてきたヘッジファンドでも投資対象を見直す動きも生じています。
 米国経済減速と財政赤字拡大で米国信用スプレッドも拡大し、FRBの利下げ環境を難しくしつつあります。

宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授

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