【公共コンサルの視点】持続可能な行政体制の構築と自治体DX推進に資する人事政策とは ~人材育成基本方針改訂の方向性~(竹田圭助)(2024年5月1日)
持続可能な行政体制の構築と自治体DX推進に資する人事政策とは
~人材育成基本方針改訂の方向性~
竹田圭助
1.はじめに
令和5年12月に総務省「自治体DX推進計画」、「自治体DX全体手順書」、「人材育成基本方針策定指針」が改訂された。今般の各種文書の改訂は明らかに人事担当部門を対象としたものである。本稿では今般の改訂を全庁的な取組に繋げるため、DX担当部門と人事担当部門との継ぎ目の役割を果たすべく、国が示す各ドキュメントを再整理した上で留意点を提示しつつ、自治体DXを人事政策からみたときのあるべき方向性を示す。本稿の柱は、以下図表1に示すとおり「人事政策全般」とその中で取り扱うべき「守りのデジタル人材」「攻めのデジタル人材」の3点である。
図表1 本論の構成
(資料)筆者作成
2.人材政策全般の対応
総務省の同文書改訂を受けて人事政策全般を考える視点[1]として以下の2点が必要となる。
第一に、人的資源管理の観点からみた総合的な人事戦略として立案することである。今般改訂の趣旨は「人材確保」という概念の要素が大幅に付加された点にある。官民問わず労働市場の制約から人手不足が深刻化しつつあり採用倍率が低下傾向にあるためと考えられるが、もう一歩踏み込むならば、確保・育成・配置・評価・処遇のサイクル構築や自治体経営に必要な2大資源である「人的資源」の最適化という意味での人事戦略という観点を加えたい。
第二に、デジタル人材のみならず全ての専門職・技術職についてスキル、将来的な業務量、配置必要数、研修計画との整合性に係る検討をすることである。これを進めていくと突き当たるのは、定員管理(定員適正化)である。本来的にはこれも検討範囲に含めるべきである。
なお計画論としては、二重管理がコストや不整合を生むリスクを考えると「母屋」(人材育成基本方針)があるにもかかわらず「離れ」(デジタル人材に特化した人材育成基本方針)を作らず、デジタル人材も含めて1つの人材育成基本方針にて管理することを推奨する。
3.人事政策として重視すべき「攻め」と「守り」のデジタル人材
次に人事政策の中で位置づけるデジタル人材のあるべき姿を整理する。総務省文書を踏まえると、図表2のとおり大まかに「攻め」と「守り」の類型があると考える。
図表2 デジタル人材の類型(「攻め」と「守り」)
(資料)総務省「自治体DX推進計画【第2.2版】」より筆者作成
(1)「攻め」のデジタル人材
「攻め」のデジタル人材とは、「汎用能力としてのデジタル活用能力」を有する人材と筆者は定義した[2]。大まかには総務省文書でいうところの「DX推進リーダー」が該当する。より具体的には行政分野(例:こども子育て分野、防災分野等)や職種(一般事務、保健師、建築技師等)、職位(主事、主任主事、係長等)別によらず汎用的に職員に必要とされる能力を指す(この意味で「政策法務能力」や「マネジメント能力」等と並列の概念といえる)。例えば「主任級の保健師かつデジタル活用能力レベル2」や「課長補佐級の土木技師かつデジタル活用能力レベル3」といった人材像が想定される。このため「攻め」のデジタル人材は、高度専門人材や後述する「守り」のデジタル人材以外の「全ての一般行政職」を対象とする。さらに求められる知識・技術水準によって対象者が限定的となることや、組織規模により必要数は変わることが想定されるため、以下図表3のように習熟度を3段階で表現することも一案である。
図表3 「攻め」のデジタル人材の類型
(資料)筆者作成
「攻め」と対をなす存在として「守り」のデジタル人材の存在も強調しておきたい。現在、ほぼ全ての職員がなんらかの形で情報化・デジタル化の恩恵を受け、今や自治体はコンピュータなしでは業務執行体制が成立しない状況になっている。それは1960〜70年代の事務処理合理化のための電算化から、多くの職員にPCが配布されるようになった1990年代以降にかけて次第に浸透した結果といえる。例えば住民基本台帳業務を全て紙ベースで実施することを想像してほしい。今やそうした人手の確保は予算面でも管理面でも現実的ではないだろう。
こうしたシステム技術領域の特殊性や歴史的経緯を踏まえれば、「従来の情報政策担当部門が担ってきた庁内の情報システムの構築・維持管理に係る業務や、情報セキュリティに係る業務」=「守り」の領域に係る専門性は、内製であれ民間事業者への発注であれ、技術への理解力が求められ、また技術の進展が急激で国の動向も変わりやすい以上、業務継続性の観点から当該分野以外への異動のない専門職として取り扱うのは自然と筆者は考える。
こうしたシステム技術領域の特殊性や歴史的経緯を踏まえれば、「従来の情報政策担当部門が担ってきた庁内の情報システムの構築・維持管理に係る業務や、情報セキュリティに係る業務」=「守り」の領域に係る専門性は、内製であれ民間事業者への発注であれ、技術への理解力が求められ、また技術の進展が急激で国の動向も変わりやすい以上、業務継続性の観点から当該分野以外への異動のない専門職として取り扱うのは自然と筆者は考える。[3]
4.デジタル人材マネジメントに必要な事項
持続可能な自治体経営に資するDXを推進するためには、先述した「攻め」と「守り」のデジタル人材双方について中長期的な人材マネジメントが肝要である。その中で必要不可欠なマネジメントの前提となる適切な現状認識及び制度見直しに必要な事項は以下のとおりである。
図表4 デジタル人材マネジメントに必要な事項と留意点
(資料)筆者作成
5.まとめ
筆者は、生産年齢人口の急激な減少の一方で増加する行政需要に応えながら自治体経営を持続可能なものとするためには、情報システムへの投資を継続・拡大し住民・事業者との接点や行政の内部事務でさらに活用する必要があり、そのためには使い手である自治体職員がデジタル技術への理解度をさらに高め、自然体で使える必要がある。こうした認識は自治体DXやデジタル田園都市国家構想等、本稿執筆時点で国策として展開されている各種デジタル系政策が落ち着いた後も色褪せないだろう。
この意味で「守り」のデジタル人材、「攻め」のデジタル人材の双方について、将来に渡って安定的な人材マネジメントが不可欠となる。こうした前提を人事担当部門とDX担当部門・情報システム担当部門が共通認識として持つことが、持続可能な自治体経営のスタートラインとなると筆者は確信している。
[1] 詳細は竹田圭助「自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(1)―デジタル人材を含む人事政策全般について」(『地方財務(2024年2月号)』2024年2月、ぎょうせい)を参照されたい。
[2] 詳細は竹田圭助「自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(3)―汎用能力としてのデジタル活用能力と「攻め」のデジタル人材」(『地方財務(2024年4月号)』2024年4月、ぎょうせい)を参照されたい。
[3] 詳細は竹田圭助「自治体人材育成基本方針のあるべき方向性(2)―行政の専門分野としてのデジタル分野とデジタル人材について」(『地方財務(2024年3月号)』2024年3月、ぎょうせい)を参照されたい。
竹田圭助(たけだけいすけ)
日本政策総研上席主任研究員
関東学院大学非常勤講師
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