レポート・コラム

【公共コンサルの視点】有効に機能する行政評価とは(事業評価を中心に)(佐々木央)(2023年10月30日)

有効に機能する行政評価とは(事業評価を中心に)

1.はじめに

 多くの自治体で行政評価(政策評価、施策評価、事務事業評価)が導入されて概ね20年程度経過するが、時間の経過とともに行政評価自体の成果の低下・低迷が拡大している。特に評価作業にかかる職員の負荷と比較して評価結果の活用が不十分であることも含め、行政評価の形骸化が進んでいる。しかし、将来に向けて行政経営資源の制約が強まる中、深刻化する地域課題を効果的・効率的に解消するために、行政評価の役割は重要性を増している。

2.行政評価が形骸化する要因

 行政評価の形骸化とは、行政評価の運用により期待する効果が十分に得られず、評価作業に係る職員コストを含め費用対効果が著しく劣るにもかかわらず、従来の評価作業を継続している状態をいう。
 ほぼ全ての自治体が行政評価に取り組む目的としてアカウンタビリティ(説明責任)を掲げているが、行政評価シートの内容が、地方自治法第233条第5項に基づき作成する「決算に係る主要施策の成果報告書」と代わり映えしない内容に留まっている場合が多い。
 アカウンタビリティ以外の目的として、事業の改善・見直し・廃止、評価結果の予算への反映などを掲げる自治体も多いが、これらの目的のために有効に機能する行政評価を運用している自治体は、非常に少ないものと認識している。
 表層的なアカウンタビリティ以外の目的のために行政評価を有効に機能させられない要因として、主に以下の点があげられる。

【行政評価を有効に機能させられない主要な要因

○評価の視点・基準・仕組みが不適切
○職員、庁内組織及び外部評価組織の評価能力の不足
○議員、住民、利害関係団体等からの主観的な外圧を防ぐ仕組みの不足
○評価結果を活用する庁内関連制度との連動の不足

 通常、個々の事業を評価する事業評価は、誰の目から見ても明らかに不要・不急の事業の廃止や大幅な見直しが一段落した後に停滞し形骸化する。また、広く普及している指標に基づく目標管理型評価は、一般的に評価基準が目標値の達成状況となっている。そのため、事前に設定する目標値の根拠及び妥当性が希薄であることや、新型コロナ禍や大規模自然災害等の予測できない事業への影響から、多くの事業で根拠が不明な「継続」の評価結果となり、行政評価を行っても施策・事業の改善・見直しが進まない。

3.行政評価を有効に機能させるためには

 行政評価を有効に機能させるため、行政評価を有効に機能させられない要因を解消する必要がある。
 以下、考察する。

○評価の視点・基準・仕組みが不適切

 多くの自治体が採用している指標に基づく目標管理型の評価の場合、少なくとも事前に設定した目標値の達成状況を評価基準とするのは、目標年度までの事業費予算及び従事する職員工数の確保を約束できない限り避けるべきである。目標年度までの事業費予算(実施計画上の事業費ではない)を庁内で意思決定すれば、事業所管部門はある程度、根拠を持った目標値の設定が可能となる。しかし、向こう5年間程度の事業費予算を意思決定できる事業や財政部門を含む自治体がどの程度存在するのかは疑問である。
 適切な評価とするためには、目標値を設定する場合でもその達成・未達成そのものを評価するのではなく、なぜ達成したのか・なぜ未達成なのかの要因分析を出発点としなければならない。そして、要因分析の結果に基づき、事業を改善・見直すことが重要である。なお、指標の目標値は設定せずとも適切な評価は可能である。指標値の経年推移(増加・減少)や、1活動当たり・1成果当たりの単位コスト及びその経年推移、指標値のセグメントによる違い(アンケート調査結果のデータであればクロス集計)を中心に様々な定量的・定性的情報を分析することで、事業が抱える問題とその改善策を明らかにできる。

○職員、庁内組織及び外部評価組織の評価能力の不足

 一部を除き多くの職員及び庁内組織は、評価能力以前に政策マネジメント能力(施策の目的・目標の達成に向けた有効な事業の立案・見直し)が不十分な状態にある。多くの担当職員は、自ら担当する事業の実施目的・望ましい対象・実施により獲得するべき成果を考える機会に乏しく理解する機会も与えられていない。結果、施策・事業を適切に評価するための定量的情報として、適切な活動指標、成果指標等を設定できない職員が非常に多くなっている。また、事業の問題・課題を分析し、費用対効果を高める能力はさらに不足している。
 外部評価組織による評価の実施においても、評価委員が十分な評価能力を備えていないことが多く、高い評価能力を有する学識経験のある委員であっても時間及び情報量の制約から不十分な検討結果に留まる場合がほとんどである。

○議員、住民、利害関係団体等からの主観的な外圧を防ぐ仕組みの不足

 評価結果により廃止・大幅な見直しが必要な場合、首長や所管部門の職員が事業の受益者等の利害関係者や一部の議員からの強い圧力にさらされるため、それを避けようと事業の問題を隠蔽し、費用対効果向上のための改善策を実施しないケースがみられる。効果の乏しい事業の廃止等には住民サービスの切り捨てと反対するこれら論理性を欠く感情的な外圧から、庁内の所管部門、経営管理部門、首長などを守る仕組みが必要である。そのため、廃止・大幅な見直し等の評価結果となる事業に関しては、十分な根拠情報の整備と理論構築、庁内評価組織、外部評価組織など所管部門や首長に対する責任追及を防止するための組織的な検討・決定の仕組みが不可欠と考える。

○評価結果を活用する庁内関連制度との連動の不足

 評価結果を庁内の経営に活用するためには、評価所管部門以外の経営関連部門の所管制度との連動が必要不可欠である。総合計画(特に基本計画・実施計画)の策定、実施計画事業のローリング、予算編成、組織別職員定数管理、人事評価などの制度と連動した行政評価の評価結果を活用する仕組みの構築と運用が極めて重要であり、これが不十分な場合は評価結果が活用されない行政評価となる。

(資料)筆者作成

4.最後に

 施策評価を有効に機能させるためには、施策の詳細具体な目的・目標の存在と施策配下の事業との関係を含めた形骸化要因の解消が必要である。
 行政評価の形骸化要因やその要因を解消して有効に機能させる行政評価とするためには、各自治体で異なる行政経営の状態や、政策マネジメントの目標に応じ適切な支援が可能な高い専門性と豊富な業務経験に裏づけられた知見を有する専門家(一部の学識経験者、一部のコンサルティング会社)の支援が不可欠である。

佐々木央(ささきあきら)
日本政策総研取締役兼執行役員

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