レポート・コラム

【都市計画レポート】ニュータウンの現状及びその再生(長谷川一樹)(2023年10月5日)

ニュータウンの現状及びその再生

長谷川一樹

1.はじめに

「ニュータウン」と称される住宅団地(地区面積5ha以上)は、昭和40年代から三大都市圏や県庁所在地等へ集中する人口の受け皿として、全国の郊外部で開発が行われ、地域住民の住まいの確保と居住水準の向上に大きな役割を果たしてきた。
しかし、多くのニュータウンでは、同時期に30~40歳代のファミリー層の入居が一斉に進んだため、平成の時代に入ると、早期に開発された地区を中心に、極端な少子高齢化と人口減少に歯止めがかからない深刻な状況に陥っている。
これらのニュータウンは、ゆとりある生活空間や質の高いインフラが整い、優良な市街地ストックが形成されているものの、現在は存続の危機に直面している地区が散見されている。
以下では、ニュータウンが次世代へ継承すべき優良な資産として、その持続可能性を確保するための再生方策について、ハード・ソフトの両面から考える。まずは、国土交通省の既往資料等を踏まえ、ニュータウンの現状及びその再生に向けた主要課題を整理する。

<年度別ニュータウンの事業開始地区数及び面積>

資料:国土交通省 「ニュータウンの分析」より引用

2. ニュータウンの現状及びその再生に向けた主要課題

 国土交通省の「住宅団地の実態調査」によると、ニュータウンの約7割は、建築物の用途制限が厳しい住居専用地域に指定され、若者・子育て世帯が働く場や医療・福祉等の高齢者の生活を支える施設の不足、また、通勤・通学者の減少に伴う民間バス路線の減便など、多様な世代の暮らしの場として多くの課題が生じている。また、ニュータウンのうち戸建て住宅のみが全体(2,886団地)の約半数(1,468団地)を占めている。開発時の事業主体では地方自治体が32.1%、事業手法では、土地区画整理事業が63.1%を占めている。

<開発時の事業主体>

出典:国交省「住宅団地の実態調査」より筆者作成

 加えて、概ね半数の地区では、建築物の敷地面積の最低限度や壁面位置の後退距離、建築物の意匠・形態等にも一定の制限が課せられ、その結果、高齢者世帯が自宅の管理に苦慮しているケースや、親世帯と子・孫世帯の同居・近居・隣居の障壁となるなど、住民のライフステージに応じた住宅をスムーズに提供できる余地は限られている。
 ニュータウンに対する問題意識について、62.9%の市区町村が「問題意識あり」としているが、ニュータウンの再生に係る取組が未実施の市区町村が70.0%に上り、その理由として「ノウハウの不足」、「人的資源の不足」が挙げられている。また、超高齢社会の進展に伴う医療・福祉分野の行政需要の増大により、投資余力の著しい低下が深刻さを増す中、ニュータウンの再生を公的な支援だけに頼ることはもはや困難となっている。
 ニュータウン再生の取組を実施しているのは全体の約2割、その内容も「高齢者対応」「若年世帯転入促進」「空き家利活用支援」など、対処療法的な取組が主であり、抜本的な課題解決には程遠い状況にある。
 ニュータウンの再生を実現するためには、地域住民や行政に加え、高齢者世帯の住み替えやファミリー層向けの空き家のリノベーションなど、ビジネスの観点から地区内でサービスを展開する不動産事業者やリフォーム事業者の積極的な参画を促すことも極めて重要なポイントである。

<住宅団地に係る具体的な問題意識>

<住宅団地再生に係る実施中の取組内容>

資料:国土交通省住宅局市街地建築課 「住宅団地の実態調査~現状及び国土交通省の取組について~」より引用

 このような状況下で、若者・子育て世代の減少・転出及び高齢者に偏在した世代構成、経年による建物・設備の老朽化や一般的に普及している設備を備えていない住宅の機能的陳腐化など、複雑多岐にわたる課題を抱えるニュータウンの再生を高い実効性を伴ったかたちで着実に推進するためには、以下に示すような取組を実践することが有用と考えられる。

3. ニュータウンの再生方策

【再生方策①】 地域住民にとって“アメ“となる土地利用規制の見直し
 分譲マンションでは、「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」に基づき、老朽化が進み維持修繕が困難なため、建替えにより新たに建設されるマンションに容積率の緩和特例が適用される一方、戸建て住宅を主体とするニュータウンには再生を支援する法制度はない状況にある。さらに、これらのニュータウンの多くは、生活利便施設の立地や建築形態が厳しく制限される住居専用地域に指定されているため、生活の利便性や楽しさ、親世代との近居・同居を望む子育て世代のニーズにマッチしておらず、住替えや建替えが進まない大きな要因となっている。
子育て世代のニーズに対応したにぎわいや交流の施設、高齢社会の進展に対応した医療・介護施設等の生活関連施設の立地や住宅の更新等を誘導するためには、地域住民が住替えや建替えによるメリットを享受できるよう、用途地域の変更や建ぺい・容積率の緩和など、土地利用規制の見直しが必要不可欠といえる。  

【再生方策②】 PPP(官民連携)を活用した推進体制
 若者・子育て世代のニーズに対応した暮らしの機能の充実と、住民の高齢化に対応した暮らしの機能の充実、その両者を実現するため、用途地域や建ぺい率・容積率など都市計画法に基づく土地利用規制の決定権者である行政と、鉄道事業者やハウスメーカー、リフォーム会社、不動産会社など、ニュータウンの再生がビジネスとして成立し得る民間事業者で構成とするPPP(官民連携)を活用し、事業者が有するサービスやノウハウを取り入れ、経済的かつ持続的に再生に取り組める体制を構築する。
これにより、利便性の高い駅周辺住宅への住替えを希望する高齢者や、広い戸建て住宅への住替えを希望する子育て世代を対象としたマッチング支援、改修・建替え等の住宅の更新、敷地の分筆・合筆など多様なニーズに対応できる住まいの多様化と流通を促進する。

<PPPを活用した推進体制イメージ>

資料:筆者作成

長谷川一樹(はせがわかずき)
日本政策総研上席主任研究員

【都市計画レポート】ニュータウンの現状及びその再生.pdf
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