【財政を見る眼】地方財政とゴーイングコンサーン(宮脇淳)(2022年8月16日)
地方財政とコーイングコンサーン
決算は、財政民主主義に基づき議会の「議決」によって成立した予算が内容通りに執行されているかをチェックする重要な役割を担う。いわゆる、財政民主主義の担保機能のひとつである。このため、決算書を通じて予算執行に不正や誤りがないかを確認することはもちろん重要である。しかし、それと共にさらに政策や事業の継続性の適否について議論することが必要となる。予算が議会議決であるのに対して決算は承認とされ、議決通りであるか確認し認めることが役割とされている。また、仮に承認されなくてもそれは政治的課題に留まり、予算に基づく執行の効果は直接的に影響を受けることはない。国・地方自治体を問わず政治的視点からは、資金配分を決める予算編成過程が政治パワーを発揮する場として重視され、実際に予算執行された後の決算審議は不正や誤りがない限り、政治的関心が低く住民やマスコミも重視しない。
しかし、財政民主主義において国や地方自治体の決算は、会計的な不正や誤りのチェック機能では十分と言えなくなっている。政策サイクル、すなわちPDCAサイクル、具体的には「計画・実施・チェック・反映」の「チェック」と共に「反映」に結び付ける重要な繋ぎ手としての役割を決算自体が担う必要がある。「反映」の中核機能は、実施した政策・施策・事務事業に関する実施状況や成果に基づき当該政策・施策・事務事業を今後も継続して実施するか否かの点にあり、次の予算に繋げる機能である。いわゆる「ゴーイングコンサーン(Going Concern)」の機能である。
地方自治体の執行部側では、政策・事務事業の費用対効果などについて検証する仕組みが導入され、その結果は議会に報告される。しかし、議会や住民自身では実際に必要としたコストと成果・執行状態の適否等について財政民主主義に基づき検証できるツールは限定的である。そのため、議会の視点、財政民主主義の視点からPDCAサイクルを充実させ決算機能にさらに高める必要がある。そのトリガーとなるのが決算審議あるいは政策サイクルでのゴーイングコンサーン機能の充実である。具体的には、重要な政策・施策や事務事業について予算審議でゴーイングコンサーン、すなわち継続するか否かの基準・要件を予め定め、その基準・要件を満たしているかを決算で判断する機能である。ゴーイングコンサーンとは、民間企業や地方自治体の継続性・持続性を前提とする財務運営のことであり、予算審議だけでなく一年を通じて予算を執行した結果について、地方自治体、自治体経営の持続性を担保する運営となっていたかを審議し政策等の継続性の可否を見極めるものである。
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授