【民間化を見る眼】PPP事業の基本課題(宮脇淳)(2022年5月16日)
PPP事業の基本課題
多彩な民間化が展開される一方で、様々な課題も浮き彫りになりつつある。PPPは、行政によって担われてきた領域を民間企業や地域住民に開かれた存在とすることで、自治体経営におけるスリム化と民間領域の活性化を実現すると同時に、地域住民とのパートナーシップによる新たなネットワークづくりに取り組む手法である。このため、PPPを展開することは、官と民の資源、そしてリスク配分のあり方を再構築し、空洞化していた官民の中間領域を新たに構築する取組みでもある。そこでは、公法・私法、公会計・企業会計などの体系の見直し、中間領域を律する法令や条例の形成などが課題となり、行政改革、規制改革そして地方分権の流れとも重なって取り組みが重ねられてきた。PPPの中核は、もちろん「パートナーシッ プ」にある。しかし、自治体経営においてパートナーシップの言葉は、新しいものではない。日本では 1980 年代の NPM(市場原理を重視した新公共経営)を柱とする民営化や民間化の取組みであり、「第三セクター」もパートナーシップのひとつであるが、必ずしも良好な結果のみを生み出しているとは言えない。その原因としては、第三セクターの事業が観光関連や住宅関連事業などの領域で多く設定されたため、事業展開の必然性・公益性や責任の所在に対して明確且つ十分な体制が形成できず、官と民の利点だけでなく課題をも融合する結果となったこと、そして二元論による官民の縦割りと上下関係を前提として展開されたため、実態的には請負事業と類似した構図となり、官と民の権限や責任分担の不明確にも結びついている。
PPPにおけるパートナーシップは、官の領域そのもの、公共サービス自体を「共通の言葉」で語り、民間企業だけでなくNPO組織、地縁団体なども視野に入れて協働する仕組みである。NPMでは、市場原理を基本とすることから民間企業の活動領域拡大を中心としたのに対して、PPPではNPMによる効率化への取組みは継続しつつ、それによって生じた格差や セーフティネットの劣化などの問題に対し、NPOなどの非営利団体や住民も連携の対象としてパートナーシップの繋がりをより拡充するものである。民間企業との連携を中心とした第三セクターで代表されるパートナーシップが、前述したとおり「官は指示する人、民は作業する人」の請負型理念で主に運営され、官と民が抱える課題が融合しやすい構図で形成されてきたのに対して、PPPにおけるパートナーシップは、「官と民とが共に考え共に行動すること」を本質とし、請負型ではなく官と民が共通の言語で語り合い、水平的な信頼関係を形成し、責任・リスク分担を明確にする枠組みづくりを求める構図である。
PPPの考え方の基本は、①公共サービスの提供は行政に独占されるべきではなく、住民や民間企業等も公共サービスを提供する主体として認識すべきであること、②公共サービスの単純な民営化・民間化論ではなく官と民の連携を重視すること、③公共サービスの質的改善に対するコーディネート機能(結びつける機能)、モニタリング機能(効果を見極める機能)の強化が重要な役割を果たすこと、などが挙げられる。しかし、PPPの実践では、①官と民の二元的法制度や会計制度など依然として残された課題があり、地方分権や規制改革の取組みも途半ばで制度的制約が強いこと、②超少子高齢化やグローバル化が進む中で民間部門の人的資源や資金などにも制約が強まり、民間化的取組みにも限界があること、③行政のモニタリング機能の充実が進まず、行財政のスリム化を中心とした民間化の流れが強いことから、請負型からの脱却が実質的に進まずリスク分担も不明確なことなどの課題が生じていがある。こうした課題に対して、改善に向けた制度検討・取組を進めることが不可欠となっている。
宮脇淳(みやわきあつし)
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授