【経済トピックスNo.17】労働の余力(宮脇淳)(2026年8月5日)
労働の余力
女性や高齢者の労働市場参入が社会で拡大する中でも、多くの業種では構造的な労働力不足は解消されていません。厚生労働省の「労働力調査」で国内の労働力人口、すなわち「就業者と働く意思がある失業者」を合計した人口は、2025年7004万人で過去最高に達しています。65歳以上でも4人に1人は、何らかの仕事に従事しています。法改正や待遇改善等働き方改革により、国内の労働力人口は増加しています。しかし、少子高齢化で全体の人口が減少しているため、国内労働力の増加には限界があります。以下では、国内労働力の予備軍としてデータ上では「労働力」に入っていない「非労働力人口」に着目して、国内労働力の今後の「余力」をみます。

これに対して、女性の非労働力人口を見ると2010年以降大きく減少しています。女性の労働市場参入が、国内労働力の拡大に大きな役割を果たしたことが分かります。そこで、どの領域から女性の非労働力人口が労働人口に移行したかを図2でみます。明らかに、これまで「家事」に従事していた女性が、収益を得る就業者に移行したことが分かります。今後の課題は、「家事」からの移行が徐々に減少し、「その他」すなわち高齢や病弱で生産活動に従事しない者が非労働力として増加していることです。女性の「家事」と「その他」の人口数が、2020年代に入り逆転していることが分かります(図2)。これまで、女性労働力の増加を支えてきた家事労働からの労働力化が限界に近づきつつあります。

こうした労働力不足によって、一国の経済成長力が鈍化する状況を理論化した考え方として、「ルイスの転換点」があります。英国経済学者アーサー・ルイスが指摘した転換点です。地方から都市への人口移動が減少し、都市部で労働力不足となり、経済成長が制約を受ける転換点を意味します。現在の労働力不足における問題は、地方と都市の問題にとどまらず、一国全体の労働力が減少し国内だけでは減少を補えない状況です。外国人労働力への依存も国家間の獲得競争激化、さらには供給側である新興・後進国自体の経済成長による労働力確保の必要性の高まりから限界があります。日本国内の経済社会システム自体の見直しを同時に進める必要があります。「ルイスの転換点」は、こうした構造転換が進まない場合、先進国が中進国へ後退することを指摘しています。デジタル化も含めて働き方改革は、労働者だけでなく企業側にとっても重要な課題であることが分かります。