レポート・コラム

【経済見通し】2024~25年経済の行方(改訂)ーまだら模様の足重経済

【経済見通し】2024~25年経済の行方(改訂)ーまだら模様の足重経済

宮脇淳
松田睦己
日本国内経済成長率

(資料)内閣府「国民所得統計」、予測は日本政策総研

(資料)内閣府「国民所得統計」、予測は日本政策総研

 2024年前半の日本経済は、大きな転換期を迎えました。周知のとおり、日本銀行は3月に20年以上続いたマイナス金利政策を解除、7月には国債買上げ減額と政策金利引上げを決定し、金融政策の転換姿勢を鮮明にしました。円相場は対ドルレートで160円台から140円台となり、市場のロングと言われる円の長期かつ緩やかな円高局面に入っています。
 帝国データバンク企業の想定為替レートに関する動向調査(2024年度5月調査)で、日本企業の想定為替レートは平均約141円となっています。想定為替レートへの相場接近は、これまでの150~160円の水準とは異なり、輸出企業の利益要因の縮小に結びついています。米国金利政策の引下げ方向の示唆、米国大統領選挙に伴う国際政策等流動的国際情勢も加わり、実体経済、金融市場もリスク要因を抱えた波乱動向となりました。
 今後2024年後半から25年に向けての日本経済は、実質賃金の上昇、訪日インバウンドの増加、円高傾向による輸入物価の落着き等消費活動へのプラス要因が拡大する一方で、賃金コスト上昇によるサービス価格の高止まり、輸出企業収益改善の鈍化、住宅投資の減少などマイナス要因も強まっています。この結果、2024年から25年への実質経済成長は1%台前半で推移し、潜在成長率1%弱をやや上回るレベルが見込まれます。
 需要項目別では、後で見る民間住宅投資は減少、民間設備投資は2024年2%増、25年横ばい、公的投資は国家予算の拡大はあるものの全体としては弱含みとなります。インフレ率は、賃金コスト上昇と輸入物価の安定等が重なり合い、全体では2%台前半の推移と見込んでいます。なお、2024~25年の為替相場は135~145円帯、政策金利は0.5~1.0%、長期金利は1.25~1.5%、原油価格は70~80ドルを予測の前提としています。2000年代以降、企業規模による経常利益率の格差が開き始め、足元では差が大きく拡大しています。資本金10億円以上の企業と1億円未満の企業で2000年代初頭では2%強であった経常利益率の差が8%ポイント近くに拡大しています。こうした差は、内部留保の積み上がり、生産性やコスト削減度合いの違いなどによる財務体力差が明確に表れた結果であり、賃上げ対応力などでも大きな差が生じます。このため、今後の政策展開等にも影響をもたらす点は留意が必要となります。

(資料)財務省「法人企業統計」

海外 実質成長率推移

 米国経済は、主要企業の収益の増加基調が継続するなど底堅さが一部にあるものの全体としては減速傾向を強めています。物価も低下傾向を示しているため、FRB、米国政府ともに雇用情勢を重視した政策への転換が進み、2025年に向けて政策金利は4%台に低下する水準が見込まれます。このため、日米金利差は縮まり為替相場も円高方向となる要因が強まります。米国の実質成長率は、2%前後で推移すると見込まれます。
 ユーロ圏経済は、ドイツの不動産不況の広がり等懸念材料がある一方、全体として物価の鎮静化、欧州中央銀行による利下げ等で低水準ながらも底打ちする方向にあります。
 中国経済は、海外需要の回復等一部に明るさがあるものの、金融政策等の展開によっても不動産不況が依然払しょくされず消費低迷が続き、海外からの投資も減少傾向にあるため、4%台の成長の中で2025年に向けて減速傾向が続きます。

(資料)各国統計、予測は日本政策総研

民間建設投資動向

(資料)国土交通省「新設住宅着工統計」、予測は日本政策総研

 2024年後半も含めた建設投資全体は、戸建を中心に住宅投資が減速するとともに建設コスト増加が続く中で、非住宅投資である企業の設備投資がデジタル化関連によるデータセンター、半導体生産ライン投資、インバウンド需要に対応したホテル建設等で堅調に推移し、ほぼ横ばいの動向が見込まれます。建設投資は、2024年73兆円前後、25年では74兆円前後の横ばいとなります。なお、労働力確保のほかデータセンターでは質の高い電力の安定供給、半導体製造ラインでは良質な水資源確保が必要であり、地域政策としてのインフラ充実も必要となります。
 資金面でこれまで不動産投資を支えてきたマイナス金利政策が解除となり、金利コストが拡大するほかREITの収益率への影響から取得物件の選別化も進むと考えられます。資金の取得物件としては、物流、商業施設は制約的、コロナ感染拡大で低迷したホテル関係が増加、データセンター向け等の資金拡大が指摘できます。

(資料)国土交通省「建設投資額」、予測は日本政策総研

【経済見通し】2024~25年経済の行方(改訂)ーまだら模様の足重経済(株式会社日本政策総研).pdf

宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授

松田睦己(まつだむつき)
株式会社日本政策総研研究員

【掲載先】
橋本総業株式会社『月刊みらい(2024年9月号)』「最新政策動向」

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