【公共コンサルと政策の視点】高い実効性を伴った立地適正化計画の運用を実践するための重要課題(2/2)(長谷川一樹)(2024年9月18日)
高い実効性を伴った立地適正化計画の運用を実践するための重要課題(2/2)
前回のレポートでは「立地適正化計画」作成済み自治体の多くで、同計画の狙いである「コンパクト・プラス・ネットワーク」の形成が、遅々として進んでいない現状を整理した。今回のレポートでは、自治体における同計画の運用等の実態をさらに深堀りし、高い実効性を伴った運用を実践するために各自治体が注力すべき重要課題を提言する。
1.はじめに-立地適正化計画の趣旨
「立地適正化計画」は、全国的にもはや不可避となっている人口減少や少子高齢化の進展に伴い深刻さを増す都市の衰退に対応するため、公共交通沿線に居住機能や医療・福祉・商業、行政施設等の様々な都市機能を集約化し、コンパクトな都市構造に転換することで、限りある行政の経営資源(財源・職員等)の投資先を絞り込み、財政面からも都市の持続可能性を確保することを目指すものである。
同計画の極めて重要なポイントは、既成市街地に「居住誘導区域」と「都市機能誘導区域」を設定することにある。このうち、「居住誘導区域」は、特定のエリアへ集約的に住宅立地を誘導することで、一定の人口密度を維持し、生活サービスやコミュニティを持続的に確保すること、また「都市機能誘導区域」は、居住誘導区域内に特定の都市機能の立地を誘導することで、各種サービスの効率的な提供を図ることを狙いとする区域である。
<立地適正化計画制度のイメージ図>
資料:国土交通省 「立地適正化計画作成の手引き」から引用
2.立地適正化計画の運用状況
(1)立地適正化計画の取組状況
令和5(2023)年3月時点で都市計画区域を有する1,374都市のうち、立地適正化計画を作成中又は取組中は49%(675都市)であり、取組なしの51%(699都市)をやや下回っている。また、取組なしは人口5万人未満で64%(546都市)、50~100万人でも38%(9都市)に上っている。
<人口規模別の立地適正化計画の取組状況>
(2)立地適正化計画作成済みの都市における評価の実施状況
立地適正化計画は、都市再生特別措置法第84条第1項において、同計画を作成した場合には、概ね5年ごとに計画に関する調査、分析及び評価を行うよう努めることが規定されている。
平成29(2017)年度末までに立地適正化計画を作成した144都市の中で、評価を「実施したことがある」は20%(28都市)、「実施中」は22%(32都市)の合計約4割にととどまっており、作成後5年が経過しても評価未実施の都市が約6割を占めている。
<作成後、概ね5年が経過した都市(H29年度末までに作成)>
資料:国土交通省 「立地適正化計画の取組状況に関する全国的傾向 アウトプット指標(作成市町村数)について」から引用
(3)立地適正化計画における目標値の達成状況
令和3(2021)年度までに立地適正化計画を作成・公表した都市のうち、居住誘導区域内に居住している人口の割合を評価した結果、増加した都市は令和4(2022)年の66.1%(251都市)から令和5(2023)年の63.9%(274都市)に低下している一方、減少した都市は33.9%(129都市)から36.1%(155都市)に上昇している。
<立地適正化計画の国のKPI(アウトカム指標):居住誘導>
一方、都市機能誘導区域内に立地する誘導施設の占める割合が維持又は増加した都市も、令和4(2022)年の67.9%(260都市)から令和5(2023)年の63.6%(274都市)に低下しているのに対し、減少した都市は32.1%(123都市)から36.4%(157都市)に上昇している。
<立地適正化計画の国のKPI(アウトカム指標):都市機能誘導>
3.立地適正化計画の実効性を担保するための重要課題
【課題1】 PDCAサイクルに基づく計画の柔軟かつ継続的な変更
高い実効性(都市構造の転換に向けた高い効果)を伴った立地適正化計画の運用を実践するためには、立地適正化計画を起点としたPlan(計画)-Do(実行)-Check(分析・評価)-Act(改善・改革)からなるPDCAサイクルを適切に回していくことが大前提といえる。
そのため、計画作成後も将来予測される地区毎の人口構成、空き家・空き地の実態、大型商業施設の撤退や民間路線バスの廃止など、人口や都市機能の集約化に甚大な影響を与える内的・外的要因等を5年毎に調査・分析する必要がある。例えば居住誘導区域内の人口密度や都市機能誘導区域内に立地する当該施設の占める割合が低下している場合には、居住誘導区域や都市機能誘導区域の縮小等の計画変更を柔軟かつ継続的に実施する必要がある。
【課題2】 居住機能誘導区域外や都市機能誘導区域外における土地利用規制の強化
立地適正化計画作成後も、居住誘導区域外の居住は規制されず、都市機能誘導区域外でも医療・商業等の誘導施設の建設は可能であるなど、同計画は私権に対する強い強制力を伴った土地利用規制は行わず、あくまで緩やかな誘導を意図としていることが実効性の担保を阻害する大きな要因の1つである。
立地適正化計画の実効性を担保するためには、都市再生特別措置法では任意事項とされているため、ほとんどの都市でその設定が回避されている「居住調整地域※」(区域内における一定規模以上の住宅開発は市街化調整区域と同様に開発許可制度が適用)のほか、市街化区域から市街化調整区域に変更するいわゆる「逆線引き」や「用途地域」の見直しによる建築物の用途規制の強化(又は緩和)など、区域外において都市計画法に基づく土地利用規制策を大胆に導入する必要がある。
※令和5(2023)年3月31日現在、「居住調整地域」の指定は青森県むつ市の1市にとどまっている。
<居住調整地域の概要>
資料:国土交通省 「都市計画運用指針における立地適正化計画に係る概要」から引用
【課題3】 公共施設等総合管理計画やインフラ整備に係る個別計画との整合性の確保
都市機能誘導区域へ特定の都市機能を誘導するには、学校教育施設や生涯学習施設、福祉施設など、各自治体が所管する公共施設の再配置や機能更新と密接に連携した取組も重要なポイントの1つと考えられる。このため、公共施設等総合管理計画や長寿命化計画(個別施設計画)を改定する際は、立地適正化計画との整合性を確保した内容にするとともに、下水道・道路・公園等のインフラ施設の整備や老朽化対策においても立地適正化計画を反映した優先順位の設定等に取り組む必要がある。
【課題4】 全庁的な計画推進に必要不可欠な庁内推進体制の整備
立地適正化計画の実現は、将来にわたって当該都市全体の持続可能性を確保する上で極めて重要な取組であるにも関わらず、多くの自治体では従来型の縦割り組織のもと、全庁的に同計画に基づく都市全体のマネジメント(経営)を推進するための組織体制が整備されていないほか、立地適正化計画制度の創設以降、全国的に都市計画部門の職員数が概ね減少傾向※で推移しており、今後、同計画の推進を支える中心的な役割を担う人材難が深刻さを増していくと予測される。
このような状況の中、立地適正化計画に基づく都市全体のマネジメントを着実に推進するには、首長の強いリーダーシップのもと、次図に示すような全庁的な組織体制を整備することで、先述したPDCAサイクルに基づき、実施した取組によって生み出すことができた成果や進捗状況を適時適切に検証し、その結果を実施計画等に反映させる必要がある。
※全国の市町村における都市計画一般分野の職員数は、平成26(2014)年度の1万7,482人から令和5(2023)年度の1万7,213人と1.5%(269人)減少。(出典:総務省「地方公共団体定員管理調査」)
<立地適正化計画に基づく都市マネジメントの庁内推進体制>
【課題5】 計画推進に向けた職員・地域住民等の意識改革
一般的に多くの都市では立地適正化計画に基づく都市マネジメントの重要性が全庁的に浸透していないことが、高い実効性を伴った計画の推進を担保できていない要因の1つとなっている。そのため、同計画に基づいた都市マネジメントを全庁・全職員が一丸となって推進できるよう、職員一人ひとりの計画推進における役割や責任等の理解徹底を図る必要がある。
併せて、地域住民や民間事業者と同計画に基づき都市構造の転換に取り組まなければ、近い将来、都市全体が存亡の危機に瀕することについて共通認識を醸成し、その実現に向けて行政と共に考え、共に行動するまちづくりを促すための情報発信を懇切丁寧かつ根気強く行うことも極めて重要である。
<立地適正化計画の実効性を担保するための重要課題(まとめ)>
4.おわりに
現在、もはや不可避となっている人口減少社会下において、地方都市では、人口比率の50%以上が65歳以上を占める「限界集落」の問題がより一層深刻さを増しているとともに、大都市では昭和の人口急増期に駅勢圏(例:駅を中心に半径1km)から離れた地域に開発されたニュータウンの空洞化に歯止めがかからない状況が続いている。そんな中、都市全体の持続可能性を確保するため、立地適正化計画に基づく都市構造の転換は、我が国全体の極めて重要な政策課題であることを行政内部はもとより、地域住民や事業者に対しても普及徹底させ、官民の知恵と総力を結集し、その実現に向けた取組を一歩でも前へ進めていくことが強く求められる。
長谷川一樹(はせがわかずき)
日本政策総研上席主任研究員