レポート・コラム

【公共コンサルの視点】有効に機能する総合計画とは

 有効に機能する総合計画とは

佐々木央
1.はじめに

 地方自治法による策定義務撤廃後も、ほとんどの基礎的自治体が一般的に総合計画と称される最上位計画を策定している。また、多くの政策分野で法令に基づき行政計画が策定されている。
 一方、自治体の活動・業務は各組織が所管する事務事業として実施されており、経営資源の確保(特に事業費予算の編成)が必要であるにも関わらず、総合計画等の企画政策型計画とは連動性が希薄である(介護保険事業計画に代表される事業系計画を除く)。このため計画に位置づけた施策の実行性の担保が不十分となる。また計画図書に記載されている施策の目的・目標等の情報抽象度が高く、検証可能性が低いため、実効性(目標達成に向けて効果を発揮すること)の担保も不十分である。
 このように総合計画は、実行性・実効性の両面で機能を果たせておらず、事実上策定がゴールとなっている。そのため、計画期間中は存在価値が発揮されず形骸化が進むという大きな問題がある。多くの自治体では、将来に向けて予算・職員等経営資源の制約が厳しくなり、人口減少に代表される地域が抱える問題が深刻化している。難易度の高い地域課題・行政課題を解決するためには、総合計画等の企画政策型計画は策定をゴールとするのではなく、計画期間中に期待される機能を最大化させる改善が必要である。

2.総合計画に期待される機能とは

 総合計画に対し重きを置く機能は、経営環境に応じて自治体によって判断されるが、一般的には以下内容が期待される。

【総合計画自体が備えるべき機能】

○地域課題・行政課題の解決に必要な時間軸を考慮した短期・中期・長期の目標設定機能(地域の目指す将来像・政策・施策等別の目標)
○施策の目的・目標の進捗状況の測定機能(従来の施策進捗状況に対する測定は実行性の視点が中心、今後重要なのは実効性の視点)
○課題解決や目標達成の重要性を考慮した政策・施策の優先順位設定機能

【総合計画と連動して他の庁内制度が備えるべき機能(総合計画に基づく行政マネジメント機能)】

○施策の目的・目標進捗の評価・検証機能:行政評価・政策評価(主に施策評価)
○施策の目的・目標進捗に有効な事業の見直し機能:実施計画のローリング、行政評価・政策評価(主に事業評価)
○優先順位を反映した施策等の目的・目標達成のために経営資源配分を最適化する機能:予算編成、組織別職員定員管理

 これら総合計画及び連動した庁内制度が備えるべき機能の整備を阻害する要因として、
①議会への対応(特に議決対象となる総合計画範囲の抽象化・総花化)
②計画策定作業のコンサルへの丸投げと、その結果として発生する職員の政策立案能力の低下
③総合計画に基づく行政マネジメント機能に関する職員の知識・ノウハウの欠如
などが挙げられる。さらに特に②③の無視できない遠因として、定期異動により所管組織としての経験・ノウハウを蓄積・充実させる機会を喪失していることが挙げられる。これらは総合計画だけでなく、企画政策型の分野別行政計画でも共通の深刻な問題である。また、①は基本構想だけでなく基本計画までを議決対象とする自治体で、基本計画の抽象化・総花化が進んでいる状況が散見される。実施計画など議決対象外の計画で総合計画が備えるべき機能が代替されていない場合は、市民と行政が共有するまちづくりのスローガン機能以上は期待できないものと憂慮する。

3.総合計画を有効に機能させるためには

【先に行政マネジメント機能を検討する】

 多くの自治体及び総合計画を所管する企画部門は、総合計画に基づく行政マネジメント機能の重要性への認識が希薄である。このことが十分に認識されている場合でもノウハウが不足し、行政マネジメントを有効に機能させるために総合計画が備えるべき要件・情報が整備されていなかったり、他の庁内制度との連動設計が不十分であったりする。
 この状態が発生する理由は、行政マネジメント機能の運用と制度設計を前もって十分に検討していないからである。前回の総合計画策定時のスケジュールをベースに、策定することを目標として従前の策定方法・計画内容を踏襲して総合計画を策定してしまう。そして、後付で行政マネジメント機能を形式的に検討する流れでは、総合計画が行政マネジメント機能に必要な要件・情報を満たさなくなる。さらに行政マネジメント機能の重要な要素である行政評価(特に施策評価)について、インターネットで公開されている他自治体の評価シート等を模倣することには、その有効性に限界がある。多くの自治体の施策評価がアカウンタビリティ(説明責任)以外は実質的に機能していない状況が続けば、有効に機能する行政マネジメントの実現は永遠の課題となる。
 筆者と弊社理事長・若生が愛知県豊田市からの受託業務として2014(平成26)年度、次期総合計画の在り方と併せて行政マネジメント機能の検討を支援し、その成果に基づき次期計画の策定と計画期間中のマネジメントに取り組んだ事例や、第17回マニフェスト大賞(主張の部)「優秀賞」を受賞した愛知県小牧市における自治体経営の総合的な制度設計検討支援及び総合計画策定支援の事例が参考となろう。

【根拠に基づき目標を設定し施策等を立案する】

 そもそも、EBPM(客観的な根拠に基づく政策の立案)の必要性が唱えられていること自体が問題である。根拠が不十分、又は根拠を十分に検討することなく施策が立案されている場合、関係者は猛省すべきである。総合計画は、将来目標を達成するために展開する施策を体系的にとりまとめたものであり、総合計画の策定においても根拠に基づく目標設定と施策立案の重要性は論をまたない。
 また地域づくりや重要な行政課題解決のためには長期の年数が必要であるが、目標が遠い将来になるほど抽象的な内容となり進捗状況の測定が不可能だったり、目標達成までの道のりが不明になったりする。これらを克服するためには、バックキャスティング手法に基づく長期目標、中期目標の設定と、その実現のための施策のシナリオライティング(施策成果の連鎖)による計画(戦略と戦術)の立案が重要である。

佐々木央(ささきあきら)
日本政策総研取締役兼執行役員

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