レポート・コラム

経済見通し(9/30時点)

経済見通し(9/30時点)

村井慎吾

【国内経済 見通し】

予測前提
【ドル円(1 ドル)】 2023年末:140円 2023年度末:137円 2024年末:130円 2024年度末:128円 2025年末:125円 2025年度末:123円
【原油価格(WTI)(1バレル)】 2023年末:82ドル 2 023年度末:82ドル 2024年末:83ドル 2024年度末:83ドル 2025年末:84ドル 2025年度末:84ドル

(資料)22年、22年度は内閣府「国民経済計算」より、予測は筆者作成

<実質GDP寄与度(%)>

(資料)筆者作成

 1-3月期の日本経済は、新型コロナ収束後の行動制限緩和による消費活動の活発化、コロナ禍で抑制されていた繰越需要やGX・DX対応の設備投資といった内需を中心に成長がみられた。一方、4-6月期には昨年の大幅な輸入物価の上昇を受け食料品を中心に企業の価格転嫁が長引いたことに加え、海外景気に不透明感が高まったことから内需が落ち込み、輸入の減少を主因とする外需が成長率を押し上げた。
 年後半は、個人消費は物価上昇に歯止めがかかりつつあることに加え、政府による支援策の延長も決まったことから底堅く推移していくと見込む一方、実質賃金のマイナスが継続するなか大幅な改善は期待しにくい。設備投資は、企業による投資意欲の強さは継続するものの、欧米金融当局による引締めの効果がタイムラグをおいて顕在化し始めるとともに、中国経済の先行き不透明感が高まっていることから実施見送りを決定する企業も増加しよう。輸出については、引き続き訪日外客数の増加によるインバウンドの増加は追い風になると考えられるもの、海外経済の不透明感の高まりが重しとなろう。2024年以降は、コロナ禍からの回復という大きな流れの中で潜在成長率を上回り推移するものの、抑制需要が発散されていることに加え、政策効果が剥落していくことから成長の速度は徐々に鈍化すると見込む。
 物価については、世界的な商品市場の安定や、円安の進行速度の鈍化や一服感から、財価格の上昇率は低下傾向を継続しよう。一方、経済再開やインバウンド需要の増加による人手不足等を背景とするサービス価格については緩やかな上昇が継続しよう。
 日銀は基調的な物価上昇と2024年春闘の状況を見極めながら、2024年前半にイールドカーブコントロール政策の撤廃を決定するとともに、2024年後半にはマイナス金利解除に踏み切ると予測する。

<海外経済 見通し>

(資料)22年は各国統計より、予測は筆者作成

実質GDP推移(%)

(資料)筆者作成

~米国~
 2023年前半の米国経済はコロナ禍での大規模な財政出動により家計に積み上がった超過貯蓄の残滓の影響や、経済再開に伴う人手不足を背景に労働市場が堅調に推移し賃金上昇が継続したことに加え、財価格を中心にインフレ率の上昇ペースが鈍化し始めたこともあり、景気の大黒柱である消費がけん引する形で景気拡大を見せていた。年後半は、コロナ禍で積み上がった家計の超過貯蓄が限界を迎えるとともに、FRBによる金融引締めの影響が波及し始め金融機関による貸出態度が厳格化していることに加え、奨学金の返済繰り延べ等政策効果が剥落していくことで、消費活動が弱まり景気は減速基調となろう。生産活動についても、FRBによる金融引締めが継続していることに加え、欧州や中国経済が振るわない中でもたつく動きとなろう。また、住宅市場についても潜在的な需要はありながらも、住宅ローン金利の高止まりがブレーキとなり、一進一退での推移を見込む。
 2024年以降は、FRBによる金融引締めが継続するなか、雇用市場の鈍化や消費の減退が継続し成長率が鈍化するものの、金融政策の転換を受け成長率は再度上昇しよう。
 物価は雇用市場の鈍化や、消費活動の弱まりをうけ徐々に低下すると見込む。FRBは物価の高止まりに対する警戒感を維持しつつも、年内は現状の政策金利を維持すると見込む。その後、物価の基調を見極めつつ2024年後半には金融政策を転換し利下げの開始を想定する。

~ユーロ圏~
 2023年前半のユーロ圏経済は、世界的な巣ごもり需要の一巡から財消費が低迷する中で、物価高が継続しECBによる金融引締めが速いペースで進んだこともあり成長率は停滞した。年後半、堅調な雇用市場が下支えとなるものの、物価高が消費活動を圧迫することに加え、ピークアウト感は見えつつも物価が高水準に位置することからECBによる金融引締めが継続し企業活動の逆風となり、景気は低空飛行を続ける可能性が高いと想定する。加えて、貿易を通じ関係の深い中国経済の先行きに不透明感が高まっていることも不安材料であり、マイナス成長に陥る可能性も否定できない。2024年以降も経済の伸び悩みが継続すると考えられるが、経済活動の停滞と共に物価上昇が鈍化し、ECBによる金融引締めが緩和するとともに徐々に成長ペースを取り戻そう。
 ECBは景気悪化と物価高止まりの板挟み状況の中で、当面は現在の政策金利水準を維持しよう。その後、物価上昇の鎮静化を確認したうえで、2024年中ごろに金融政策を転換し利下げを開始すると想定する。

~中国~
 2023年前半の中国経済は、前年末にコロナ政策を大転換しゼロコロナからウィズコロナへと舵を切ったこともあり、1-3月期こそ高い成長率を記録した。しかし、その後は若年層を中心とする失業率の高さや、長引く不動産不況等を背景とする需要不足に直面しコロナ後の回復基調が腰折れの気配を見せている。
 年後半は中国政府が景気に対する危機感を強め、景気対策に重い腰を上げ始めていることに加え、他国と異なりインフレよりもデフレが懸念される状況下、人民銀行も金融緩和姿勢を強めており、今年の経済成長目標である5%前後の成長は達成可能であろう。
2024年以降も同程度の経済成長が継続すると見込むものの、地政学上の問題や技術覇権を巡り西欧諸国との関係が一層悪化し、成長が下押される可能性がある点には注意を要する。

村井慎吾(むらいしんご)
株式会社日本政策総研副理事長(主席エコノミスト)
兼執行役員(業務企画部長)

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