【Opinion】人材獲得と企業プロモーション ~「B to C」と「ギャップ」の重要性~(宮脇淳)(2023年6月5日)
人材獲得と企業プロモーション ~「B to C」と「ギャップ」の重要性~
宮脇淳
製品やサービスの売上拡大だけでなく、社員採用等労働力の確保においても官民を問わず組織間競争が激しくなり、企業のプロモーション活動の充実が不可欠となっています。プロモーションは、日本語で宣伝・広報と訳されますが、顧客に商品やサービスを認知してもらう、働き手に企業自体を認識してもらうことに留まるとその効果は限定的です。認識のための情報提供ツールは極めて多様化し、クロスメディアの活用(多様な媒体の活用)等ICTの急速な進化で相互の競争が激化の一途を辿っています。知ってもらうだけでなく、納得してもらい購入あるいは就職へのチャレンジという「行動」に結び付ける流れが必要となります。こうしたプロモ ーションの 重 要 性は、「B to B」 (Business to Business:企業間取引)の企業でも飛躍的に重要となっています。それは、消費者への直販の拡大だけでなく、新卒・転職者を問わず人材獲得のプロモーションが「B to C」(Business to Customer: 企業対消費者間取引)の構図を色濃く持つことによります。そこで以下では、採用活動に的を絞った「B to C」の構図のプロモーションを整理します。
【新卒・転職動向】
近年の大卒から高卒までを含めた就職希望者は毎年60万人台で推移しており、全体では漸次減少傾向にあります。また、2000 年代の転職状況を見るとリーマンショックやコロナ禍等の環境変化による変動はあるものの、概ね 300 万人前後で推移しています。コロナ禍の影響を除いた転職傾向を2013~19年の平均で見ると最も送出数(転職した人数)が多いのが卸小売58 万人、製造業43 万人、医療福祉41万人、宿泊・飲食業38万人、運送・郵便業17万人、建設業17 万人、一番少ないのが情報通信業9万人となっています。以上の業種の中で、卸小売業、宿泊・飲食業では送出した転出者数を補えない結果となっており、業種ごとでも転職影響が異なっています。
【作用と意図】
採用プロモーションの効果を「原因」と「結果」の関係でとらえた場合、企業や商品を認識してもらう 「作用」たる要因(作用因)とそれを就職という行動に結び付ける「意図」となる要因(意図因)に分ける ことができます。日常生活でも、空腹を認識し食堂街に行っても何を食べるか選択行動が生じます。この選択行動に影響を与えるのが「意図因」となります。採用に関しては企業の良さや特徴を伝えるのが作用因、その認識から就職という行為に駆り立てるのが意図因です。注意すべきは自らの企業について細かく説明することにとどまると様々な情報の中に埋もれてしまい、行動へと結び付ける意図因が生まれづらくなる点です。マニュアルに細かく記載しても、活用されないのと同じです。
【プロモーションと情報伝達】
意図因が重要なカギですが、プロモーションの入口が認識であることは間違いありません。作用因たる認識が形成されなければ、会社人事担当へのアプローチが始まりません。プロモーションは情報伝達の一種であり、①認知、②理解、③納得、④行動の四段階に分かれます。④に結び 付くかが意図因の課題となります。
①認知は、特定の企業や商品等の存在を知ること
②理解は、存在を知り賛否は別としてその内容を他と区別できること
③納得は、区別して理解した内容に賛成すること
④行動は、納得に基づいて行動すること
となります。
採用活動では、①会社の存在を知らせ、②会社の業務や特性を他と区別して伝えることで、作業因を短時間で視覚的に提供し形成するのがポイントとなります。そして、意図因たる③④で人間行動の動機を生み出します。働きたい意欲を生み出すイメージをバーチャル的にまず伝えることが基本となりますが、伝えるべきイメージの核は就職活動者が抱える「ギャップ」に働きかけることです。
【ギャップとは何か】
ギャップとは、ニーズ(理想)と現実の隔たりです。ニーズを捉えることは、重要です。しかし、ニーズには「あったらいいな」から「絶対必要」まで差があります。この差の強さがギャップの大きさです。大きいギャップは個々人の「課題」であり、小さいギャップは個々人の「期待」となります。採用活動では、まず個々の就職活動者の「課題」を丁寧に把握し会社の本業の方向性と比較し対応する柱のこと(例えば、給与、職種、労務環境等)、そして「期待」への対応は、会社の本業の方向性とは異なる視点から対応の質を高める付加価値の部分(例えば、キャリア形成、ライフワークバランス等)となります。ニーズは個々人で異なります。また、ニーズが同じでもギャップの大きさは異なります。このギャップを個々人に合わせて把握することが必要であり、集団単位ではなく個々人に対する「Face to Face」の「B to C」対応が求められます。
宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授