レポート・コラム

【Opinion】人的資本充実のためのリーダシップと研修教育(宮脇淳)(2023年5月2日)

人的資本充実のためのリーダシップと研修教育

宮脇淳

 企業の人的組織に関して、新入社員の採用難、階層別・年齢別の人員構成の歪み、ワークライフバランス の多様化、中途採用の拡大による組織としての一体化の課題、働き方改革政策の推進等様々な取組課題とそれに伴う新たな問題が生じていることは周知のとおりで す。一方で、急速な人口減少の中で企業の持続性を確保するため自ら判断し行動できる人的資本の充実が求められています。こうした環境において必要となるのは、企業組織のすべての階層を通じた「変革型リーダシップ」と「開かれた学習」です。

【変革型リーダーシップとは何か】

 変革型リーダシップとは、①リーダシップが特定の階層のものではなく全階層にリーダーが存在することへの認識を形成すること、②そのことが組み込まれたOJT(On-the-Job Training) と異なる日常的教育研修システムを形成することの二点から構成されます。こう したリーダシップは、企業のトップ階層や管理職だけの 機能ではなく、各階層に程度や内容は異なっても存在しそれが相互に結び付いて全体として機能を発揮します。こうした機能が自ら研修教育する組織を形成し、トップから中間管理職・若手に関係なく「開かれた学習の場」を形成することになり、自ら考え自ら決定できる組織に進化させます。

  組織を進化させることに対して最大の障害となるのは、個々人が良いアイディアを持っているか又は状況を変えることができる何かを知っているのに、組織の閉鎖的・前例踏襲的な体質が「聞くことを望まない」という姿勢を貫くことにあります。こうした体質は、企業の進化を止める大きな要因とならざるを得ません。新たな思考や発想などを排除する体質を克服しつつ、経験・知識の持続的な蓄積の場を形成することが開かれた学習を形成します。

【開かれた学習の構成要素】

 組織での地位や権限、担当分野に関係なく、さらには組織の内外にとらわれないオープンな学びの場を形成することは、積極的に環境の変化や揺れを受け入れ、学習姿勢を開放する個人・組織の体質を進化させます。継続的な成長、変化に向けて新しい視点の学習が実現しない場合、組織や地域の活力は停止することになります。活力ある状態を生み出す最大の要因は、組織や組織を動かす特別な挑戦又は刺激的なアイディアを特定の枠組みや価値観に拘束せず、広く情報・意見を交換し創造性を高める場を形成することにあります。

 創造性を高める場では、リスクを「成功の本質的部分」であるとみなし、失敗を「不適切な方法が分かった」として積極的に蓄積することが必要となります。リーダーの①目標達成に向けた正確な方向性の伝達、②各フォロワー(社員等)の目標設定と実行、③振り返りを柱として変革を行うことを重視するだけでなく、変革前の位置確認を重視することが重要となります。その上で変革型リーダシップによる一歩掘り下げた分析視点として、①環境認知の重要性、②成功事例から整理されるリーダシップ機能の限界への認識、③成功に対するリーダーシップ要因と非リーダシップ要因の明確化、④そしてネットワークの重視にあります。

【従来型の課題と開かれた学習の機能】

 開かれた学習において求められる第 1 の機能は、個人的なビジョンという名の多くの糸を集団としての大きな布に編み上げることです。従来のフォロワーは、リーダーが自分達のために組織のビジョンを定義してくれることを期待しました。このためリーダーは組織のビジョンを一方的に創り上げ、それに対してメンバーの参画を得て自分自身と他の人々を支えることがリーダーの仕事であると考えられてきました。しかし、こうした従来型のリーダシップには、固有の弱点が存在します。それは、①リーダーが組織のビジョンの単独の創造者であるため、フォロワーの未来を心に描く能力が退化すること、②1人のリーダーによって作成されたビジョンが固定化され動かせないため、フォロワーの側による選択、イニシアティブによる如何なる動きも事実上排除され、人材の育成には劣位となります。

  第2の機能は、人々に創造的な力をフルに発揮してもらうことであり、企業として他の人々にとって重要なものを自ら選択し、自ら求める存在になれるよう参画するのを助けることにあります。従来の機関車型リーダシップの組織では、人々が望む最良でかつ存在し得る唯一の方法はリーダーへの追従方法であり、そこでの進化は極めて限定的となります。先例や従来の手法の踏襲も同様です。そうした追随方法に替えて新たに参画を求めることが重要となります。

  そして第3の機能は、望ましい結果を創造することに役立つネットワークを創り出すことである。ビジョンに向かって、全員がコミットする方向に伝えていく構造をも創造する必要があります。

宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授

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